――長く続いている「LISTEN.」だが、山口さんにとってそもそものきっかけはなんだったのだろうか。

山口:歌や踊りで、生きる力を生み出してきた世界のさまざまな民族文化に強い憧れがありました。音楽は空気と同じで、壁を越えて行き交うことができる。説明や解説から入るのではなく、世界を音で体感する旅をしながら、今という時代の輝きを映像ライブラリーにして、タイムカプセルのように未来へ届けたいと思いました。受け継がれてきたメロディーやリズムの中には、その土地の暮らしぶりや、人々が旅をして結びついてきた証しが潜んでます。それを読み解いていく道のりは、時空を超える壮大な旅です。騎馬民族の音楽に耳を傾ければ、馬のギャロップや疾走する爽快な風や大平原の景色が心に浮かんできます。

――世界には数多の音楽がある。取り上げる音楽をどう選ぶのか。

山口:一つ扉を開けると、次から次へと扉が開き、音楽に導かれているようです。知れば知るほど、知らなかった世界の広さを思い知るような感覚です。
 
 意外な発見といえば、イタリアのサルディーニャ島では、一般的なヨーロッパのイメージと全く違う、まるで日本の縄文時代のような、原始の血が滾る古代の火祭りに出合えました。ナマハゲのような悪魔の仮面をかぶり、巨大な金属の鈴を背負って男たちがたき火からたき火へと練り歩く、春を迎える太陽信仰に基づいた祭りです。この島には、バグパイプのルーツとも言える、3千年以上前に起源を持つ葦笛を、口に何本もくわえて演奏する不思議な演奏技術が残っていたり……。

 サルディーニャでは、アクロバティックな騎馬技術を競う伝統があるのですが、サルディーニャ人の起源をたどると、中央アジアの騎馬民族にルーツを持つと言われています。その証しとも言えるのが男声合唱文化で、まるでモンゴルのホーミーのような発声法で、男たちによってアカペラで歌われます。つくづく、音楽を通して、壮大な人間の歴史を体感する発見の旅だなと思います。

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