俳優 山口智子(やまぐち・ともこ)/1964年10月20日 栃木県生まれ(写真:twin planet communications提供)
俳優 山口智子(やまぐち・ともこ)/1964年10月20日 栃木県生まれ(写真:twin planet communications提供)

 俳優として活躍する山口智子さんには、もう一つの顔がある。世界中を旅して出合った音楽や文化を未来に語り継ぐ、音楽・紀行ドキュメントのプロデューサーとしての顔だ。AERA 2019年9月30日号に掲載された記事を紹介する。

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――今年で10年目を迎える音楽・紀行ドキュメント「LISTEN.」(BS朝日)は、山口智子さん自身が企画からロケハン、撮影の立ち会い、編集まですべてにかかわっている。今月放送されるエピソードの舞台はネパールとギリシャだ。

山口智子(以下、山口):エベレストを抱くネパールという国に、以前から興味がありましたが、全く未知の世界でした。しかし昨年、毎年ヨーロッパの都市で開催される「ワールドミュージック・エキスポ」という国際的な音楽イベントで、今回取り上げたネパールのアーティストに偶然出会いました。美しく素朴な歌声で伝統楽器を奏でる若いミュージシャンたちです。彼らの最高にチャーミングな笑顔と、「ナマステ」という言葉とともに常に相手を敬う精神性がとてもすてきで、私は迷わずネパールに向かうことを決意し準備を始めました。

 映画「リトル・ブッダ」の撮影地でもあるバクタプルという町は、まるで聖徳太子が歩いていそうな古(いにしえ)の面影が残る情緒あふれる古都です。木造の彫刻が美しい巨大な五重塔がそびえ立ち、きっと日本の古代の斑鳩の里も、こんな景色だったのではないかと思えてきました。そこの町の広場で、ご近所に住む現地の皆さんを巻き込んで、彼らが見守る中で音楽家たちの演奏を撮影しました。

「ガイネ(ガンダルバ)」と呼ばれる放浪歌人の歌も撮影しました。ガンダルバははるか昔から、町から町へと旅をして時事ニュースなどを歌い伝えたり、遠く故郷を離れた人々の伝言を歌で家族に届けたりしました。

 ギリシャでは、テサロニキという港町を舞台に、生きるためにはるかな海に乗り出した1900年代初頭の移民の時代に生まれた、人生の辛苦を歌った大衆哀歌「レベティコ」を取り上げました。日本の演歌やポルトガルの「ファド」にも通じる、強く生き抜く力となる歌です。

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