稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
今や少数派であろうとも、毎日コーヒーを飲みながら新聞を読むのが至福のひととき(写真:本人提供)
今や少数派であろうとも、毎日コーヒーを飲みながら新聞を読むのが至福のひととき(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 前回、消費税増税に伴うポイント還元への違和感を書いたが、増税に関する違和感となればもう一つ書いておきたいことがある。新聞が増税の対象から外れたことだ。

 今回の増税では、一部の商品にかかる税金が8%のまま据え置かれることになった。生きていく上でどうしても買わねばならないものが高くなると、所得の少ない人の暮らしを圧迫するからという。それはいいとして、問題はその線引きのややこしさ。基本的には飲食料品が対象になったのだが、例えばある店で牛丼を注文すると10%の税を負担せねばならないが、テイクアウトすればこれまで通り8%の負担で済む。「外食=贅沢」とみなされたのだろうが、じゃあ特上寿司のテイクアウトはどうなんだということになる。誰もが納得できる線引きの困難さを思う。

 ということで、その「ややこしさ」を新聞はよく報道しているのだが、ふと見ると、その新聞自身が増税の対象外なのである。食品以外でこのような特例措置を受けているのは新聞だけだ。薬より電気より紙おむつより新聞は生きていく上でどうしても必要ということなのだろうか。そんな理屈に、どれだけの人がすんなり納得できるだろう。そもそもいまや新聞で情報を得ている人自体が多数派とは言えまい。

 かくいう私も新聞社にいた時は、税率が上がらなければ値上げしなくて済むと単純に考えていた。だがいま改めて外から見ると、ややこしい理屈を駆使してまで増税の例外が狭く取られている中で、やすやすと新聞がその狭い例外に滑り込んだことにヒヤッとする。売る側も買う側も世の圧倒的多数の人がこのたびの増税で我慢と努力を覚悟しているのに、新聞だけがそこからするりと逃れて、お上の「お目こぼし」を受けることの危険を思う。

 新聞とは権力と対峙し、世のため人のために存在するものではなかったか。世の人と同じ我慢と努力を自分たちも引き受けることをせず、権力に借りを作るようなことで本当に良いのだろうか。

AERA 2019年9月30日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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