福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中
小学校の先生の強みを生かそう(istock)小学校の先生の強みを生かそう(istock)
 61歳で公立小学校の校長を定年退職した福田晴一さんが「新入社員」として入社したのはIT業界だった! 転職のキーワードは「プログラミング教育」。全国を教員研修で回っているうちに63歳となった。小学校プログラミング教育必修化まで半年と迫り、保護者も含めた関係者のフェーズが変わってきた。前回に続き、夏休みに全国を回る中からのトピックを取り上げたい。

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 この夏休み、東京某区の中学校PTA連合会より「小学校でプログラミング教育が始まると聞いていますが、現状を知りたい」との問い合わせがあり、8月末に区内の各中学校のPTA会長をはじめとする役員の方々を対象に、レクチャーと体験会を開催した。私の研修のメインは小学校の教育関係者であるが、それ以外の方でもこのように関心をもっていただけるのはやはり嬉しい。

 この夏休みは教育関係者でない一般の親御さんたちがプログラミングを話題にしているのをあちこちで聞いた。

 ・小学校六年生のお子さんをもつお母さん。「うちの子は受験をしないので、ボーッと過ごさせるよりプログラミング教室でも行かせようかと思っています」
 ・高学年のお子さんをもつ「おやじの会」のパパさん。「これからは、英語教室よりプログラミング教室ですよ」との強い進言、等々。

「今ひとつ盛り上がらない」と言われてきたプログラミング教育だが、小学校でのプログラミング必修化全面実施を約半年後に控え、いささかフェーズは変わってきた感がある。小学校プログラミング教育の認知度は確実に高まっているのだ。

 ただ個人的な推測だが、その情報源はテレビや雑誌、SNS、街中や電車内の看板や広告など学校以外からのものではないかと思う。

 教員研修を進めている者としては皮肉に感じざるを得ない。先ほどの保護者の発言の裏側には残念ながら「学校教育への期待薄」も読み取れる。その中には「学校からの情報の少なさ」だけではなく、「ただでさえ先生は忙しいのに、これ以上先生方へ期待をかけて負担増になるのも如何なものか……」といった忖度もあるのかもしれない。

 
 いずれにしても、「小学校プログラミング教育が始まることは知っている。我が子がついていけるか不安もある。必要性は感じているので塾なども考えるべきか……」といった、保護者の切実な思いが伝わってくる。

 明確なことは、昨年の夏と比較すると格段の差で、保護者の間でプログラミング教育が話題となり、注目されてきていることだ。その表れの一つが、PTA連合会からのオーダーと考えると合点がいく。

 さて、ではこの流れを学校や教員側はどう受け取るべきか。もちろん、これを好機とらえ、さらに認識を高めて取り組むべきだろう。私自身が教員上がりなので、教員を擁護するわけではないが、教員皆、「教わったことがない、教えたことがない、でも取り組まなければならないプログラミング教育」はハードルが高いことは確かだ。

 しかし小学校の先生の強みは「全科」を教えることができる、多彩な指導力であることは間違いない。特に、子供が初めて体験することに対して、自身は不得手でも上手に導くことができるのが小学校の先生だ。

 習字の苦手な先生もいれば、ピアノがあまり弾けない先生もいる。跳び箱を跳べない先生もいる。それでも書写や音楽、体育の指導を行っている。もちろん、これらは国語・算数のような主要教科というより「技能教科」の側面が強いので、技術的な面に差異は生じるだろう。しかし、自身は下手でも楽しく教えることができる先生は大勢いる。

 プログラミングもスキル的に捉えれば、人によって得手・不得手があるのは当然である。しかし、プログラミング教育はプログラミングのコードを教えるのが目的ではないので、そこはあまり関係がないと感じている。私自身、退職の二文字を意識する数年前までは、プログラミングのプの字も知らなかったのが現状だ。

 そのように考えると、まずは先生方自身が意欲的に、楽しく、来年度からの授業イメージをもってもらうことが最重要だ。そこで研修会は以下の3つの手順で進めている。

 
(1)導入の背景を知ってもらい、目的を明確にする

 子どもたちが親からやいのやいの言われて勉強するのではやる気が出ないと一緒で、先生たちだって文科省からのお達し、教育委員会からの指示でのやらされ感いっぱいの状態では、やる気は出ない。そこで私たちは、プログラミングの具体的な内容を伝える前に「なぜ今、プログラミング教育が必要なのか」、時代背景と社会情勢から必要感を説いていく。平成当初の「エコノミックアニマル」と称され、勢威をふるっていた頃からの日本の衰退をデータで示していくと、先生方の飲み込みは早く「なるほど。これでは……」と、テクノロジーの必要性を感じ、取り組まなくてはならない理由を理解する。目的が明確になれば、子供のために労力を費やすことを惜しまない教員特性から、研修に対する姿勢は大きく変わる。

(2)先生方自身にとにかく楽しんでもらう

 小学校のプログラミング教育は、体験重視である。その体験を通して、コンピュータの必要性とともに基本的な特性を理解したり、論理的思考を高めたりしていくことを目的としている。また、体験により、教科の学びを確かなものにすることも求められているが、子供達にとっては「楽しさ体験」を最優先と考えている。楽しく体験させることは、至って簡単である。つべこべ言わず、プログラミングを体験させることだ。実際にやってみれば子供達の目の輝きは変わり集中して真剣に取り組む姿を、私たちは数え切れないほど見てきている。つまり、研修会では先生方に子供達が味わう楽しさを体験してもらうのが、なによりの説得となる。実際、研修を終えた後の感想も「楽しかった」「やってみたいという気持ちが強くなった」などの声が多い。

(3)授業実践のイメージをもってもらう

 導入の背景を知り楽しさを体験したら、後は具体的に授業での事例として、先進校の取り組みを紹介していく。ここまで来ると、先生方も力量を発揮し、担当する自分の学年をイメージしてグループで実践面の意見交換をしたり、私たちに質問を投げかけたりもしてくる。ここは、先生方のオリジナリティーが発揮されるところである。ここで初めて我々講師陣は、研修会の成果を実感する。

 つまり、研修会では、プログラミング教育の背景をレクチャーした後、ひたすら「楽しい体験」をしてもらうことを主眼とし、その「楽しい体験」を子供たちに伝えてもらう。その伝え方が先生個々のオリジナリティー溢れる授業実践である。

 ここに、小学校教員ならではの専門性―初めて取り組む子供達に分かりやすく教えることができるーが発揮されれば、保護者の不安と学校を取り巻く環境の温度差も緩和されるはずである。

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福田晴一(ふくだ・はるかず)/昭和31(1956)年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月NPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に向け、指導教員を養成すべく、全国を東奔西走中

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