家庭医の孫大輔さん(右)は、市民と医療者の対話の場「みんくるカフェ」主宰。「谷根千まちばの健康プロジェクト」代表。著書に『対話する医療 人間全体を診て癒すために』(さくら舎)(撮影/編集部・高橋有紀)
家庭医の孫大輔さん(右)は、市民と医療者の対話の場「みんくるカフェ」主宰。「谷根千まちばの健康プロジェクト」代表。著書に『対話する医療 人間全体を診て癒すために』(さくら舎)(撮影/編集部・高橋有紀)

 小島美羽(みゆ)さんは特殊清掃の現場で「死の後」をよく知る。一方で、「死の前」をよく知るのが家庭医の孫大輔さん(43)だ。孫さんは看取りの現場などで、死に立ち会うことが多い。そんな孫さんは、小島さんの著書を読んで作品をどう見たのだろうか。AERA 2019年9月23日号に掲載された記事を紹介する。

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孫:率直にショックでした。私は医療という形で死には接していますが、病気の経過や老衰で亡くなったら、すぐ処置をして、きれいなうちに終わります。孤独死は全く別物で、同じ死といっても隔たりがある。小島さんはよくこの現場に耐えて仕事をされているなと思いました。

小島:こういう現実を知ってほしくて、ミニチュアを作り始めました。写真じゃ見てもらえなくても、ミニチュアなら見てもらえるので。やっぱり形として見えないと、人ってそれが本当に起きているかどうか信じられないんだと思うんです。

孫:特にお風呂の事例は衝撃的でした。

小島:滑って転落して溺れて亡くなるとか、ヒートショックで亡くなるとか、お風呂での死亡率はやっぱり高いんでしょうか。

孫:そうですね。高齢者は、自宅で一人でお風呂に入ると事故が多いので、銭湯に行くほうがいいとも言われています。

小島:でも銭湯ってそんなにたくさんあるものでもない。

孫:銭湯と地域の人との健康の関係に興味があって、銭湯歴50年のおばあちゃんにインタビューしたことがあります。昔は歩いて3分くらいのところに銭湯があったけど、どんどん減っていったと。今はバスで毎日通っているそうですが、それだけの価値があると言っていました。顔見知りの人と会ったり、背中を洗いっこするネットワークがあったり、銭湯ではいろんなコミュニケーションが起きていて、高齢者の「見守り機能」を果たしている面もあります。

小島:銭湯って常連さんが多いから、数日見ないと「あの人どうしたのかな」ってなりますよね。自宅で倒れていても心配してくれる人がいる、そういうネットワークができたら理想的ですよね。孤独死を防ごうという見守りの活動もありますが、「監視」になりがちで、逆に壁を作ってしまうこともあります。フラットなゆるい付き合いができれば、心を開いてくれるし、本当の意味での「見守り」になるのかもしれません。

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