この会談の際、「谷内氏が日韓協議の打ち切りを宣言した」という情報が流れた。ますます焦燥感を募らせた韓国は趙氏を再び日本に派遣し、対話の継続を訴えた。ただ、趙氏は会談した秋葉氏に対し、やはり「1プラス1プラスα」案しか示せず、状態は好転しなかった。

 複数の日本政府関係者は「1プラス1でも1プラス1プラスαでも一緒。日本企業がカネを出すことを認めれば、日韓請求権協定が壊れてしまう」と断言する。関係者の一人は「最大限譲っても、日本側はボランティアベースでの参加まで。強制力が伴う合意は認められない」と指摘。別の関係者も「アジア女性基金や慰安婦財団が壊れた先例を考えれば、国民を説得できない」と語る。

 日本の主張に耳を貸さずに、自説をなかなか曲げない韓国。その傾向は内政にも表れている。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は9日、様々なスキャンダルが噴出し、火だるまになっていた側近の曹国(チョ・グク)前大統領府民情首席秘書官の法相起用を発表した。

 保守陣営の関係者は「文氏が、自説を曲げないという自らの政治スタイルにこだわった結果だろう」と語った。

 文氏は過去、経済や外交の失敗が話題になったときも、「自分が任命した責任がある」として、担当閣僚の更迭になかなか応じてこなかった。弁護士出身ということもあり、政治的な妥協を嫌う。あまりに自説を曲げないため、今春ごろから、大統領府内の会議でも、文氏に逆らう意見がほとんど出なくなったという。

 だが、曹氏を巡るスキャンダルは更に広がる懸念がある。また、韓国政府は11日、輸出規制強化策の「第1弾」を巡り、日本を世界貿易機関(WTO)に提訴した。日韓関係もこのままでは出口が見いだせず、年内にも元徴用工訴訟で勝訴した原告側が差し押さえた日本企業の韓国内資産が、現金化される可能性が高まっている。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2019年9月23日号