「将来的には数量規制など強制的な手段に移行する可能性もありますが、今はマイカー規制やピークを外す“分散登山”の呼びかけで対応しています。昨年はシーズン序盤に荒天が続き、後半の特定日に集中しやすい状況で著しい混雑の日が増えた。今シーズンは分散登山の呼びかけをさらに強めています」

 確かに、分散登山は渋滞緩和への大きなキーワードだ。富士山に詳しい山岳ライターの佐々木亨さんはこう話す。

「富士山は決してオーバーユースではなく、ひどい渋滞が発生するのは特定の日の一部の時間帯、一部の区間だけ。それを分散させられれば入山者の総数規制は不要です。ご来光は山頂以外でも見られるので、山小屋でご来光を見てから出発するだけで快適な登山が楽しめますよ」

 とはいえ、「頂上でご来光」が富士山登山の主目的になっているのも事実。分散を呼びかけても、それだけは譲れないという登山者も多い。果たして、実行可能な有効策はあるのか。

 登山用具のレンタルショップ「やまどうぐレンタル屋」を運営するフィールド&マウンテンの山田淳社長は、入山規制は現実的に難しいとしながらも、ある程度強制力のある手段が必要だと指摘する。

「入山規制には法律や条例を変えるしかなく、すぐは難しい。それでも、例えば現在は夜まで運行されている5合目行きのバスの終発を午後3時くらいに早めれば、夜通し登る登山者が減る。それだけで早朝の渋滞はかなり解消されるはずです」

 強制的な規制か、まずは呼びかけを強めるのか。その違いはあれ、渋滞解消が喫緊の課題であることは関係者皆が口をそろえる。9月10日をもって今年の富士山登山シーズンは終了した。来年こそ悲しい事故を引き起こさないためにも、抜本的な対策が望まれる。(編集部・川口穣)

AERA 2019年9月23日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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