大人になってからハマる趣味がある。そんな趣味が、仕事や家庭で忙しい女性たちのパワーになっている。

「30代の頃はコンプレックスばかりで、MBAがないとダメ、英語が堪能でなければ社会人失格とさえ思っていた。けれど、40代後半になりそうした承認欲求が一切なくなりました」

 そう話すのは、VRビジネスを展開するハコスコ取締役COOの太田良恵子さん(48)。44歳のときに、夫とともに静岡・熱海の山奥に一軒家を買い、リモートで働きながら仕事の合間を縫って庭いじりに没頭している。人生の折り返し地点を過ぎ「もし来月死んでしまうとしたら、何ができていれば満足して死ねるだろう」と考えたときに思い浮かんだのが、「畑仕事ができる家」に住むことだったのだ。

 朝起きて、裏山を20分かけて1周する。鳥のさえずりを聞きながら、オンライン会議に参加する。煮詰まったな、と感じたら庭に出て草むしりをしたり、剪定をしたり。わずか5分手を入れるだけで、見た目が変わる。そこに達成感があり、最高の気分転換となる。働き方を変える前、終電まで働き続けた40代前半までの日々からは、考えられない生活だ。

「自分に許された時間だな、と感じています。40代だからこそ、これまで頑張って働いてきたし精一杯やり切った、という気持ちもある。庭いじりなんて、スキルとして履歴書に書けるわけでもないのに(笑)」

 引っ越した当初は小さな頃から憧れていた畑仕事をしようと、家の裏に畑をつくりトマトや葉物野菜などを植えてみた。だが、土壌の悪条件などが重なり失敗に終わった。

「でも一回やってみたら満足できた。大切なのは『やった』という充実感なのかもしれません」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年9月16日号より抜粋