こうした流れを加速させたのがツイッターの登場であることは周知の事実であろう。かつて、ネット上の匿名掲示板「2ちゃんねる(今の『5ちゃんねる』)」には「特定班」と呼ばれるわずかの情報から様々なことを特定する人たちがいたが、アングラなイメージがあり一般の人はあまり寄りつかなかった。それがオープン性の高いツイッターは多くの人が目にし、その分、気軽にリツイートされ拡散されるようになった。しかも誰もがスマホを持っている現在。気軽に情報を発信できる。

 前出の小沢弁護士は言う。

「特に今回のあおり運転のように世間の感情がワンサイドに傾くようなケースでは、犯人を特定して社会的制裁を加えなければならないという価値観を持っている人が、安易に情報を信じて拡散する」

 小沢弁護士の元には今回のデマを拡散した人から「謝罪メール」が150件近く届いているが、なかには「自分がリツイートしたかどうかわからないが、したかもしれないから謝りたい」といったものもあったという。

 関西地方に住む主婦(40代)は8月17日午前、自身のツイッターに冒頭の会社経営の女性の実名を記し、

<早く逮捕してー!>
<地獄へ送って~!>

 などと投稿した。

 主婦は本誌の取材に、投稿した理由について一刻も早く犯人逮捕につながればという思いからだったと明かした。だが、その時点で、会社経営の女性は自身のSNSで情報はデマだと否定していた。主婦はそのことを知っていたが、「会社経営の女性=ガラケー女」だと信じ、言い逃れをしていると思い込んでいたという。今、こう話す。

「うのみにする私も浅はかだったと反省してます」

 だが、気軽なリツイートの裏にある責任は重い。発言が向けられた被害者は、一生残る傷を負う。(編集部・野村昌二)

AERA 2019年9月16日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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