トールキンにとって「自身の作品、創造性を共有するための安全な場所となった」というのが、親友3人と結成した秘密クラブT.C.B.S.だ。詩、音楽、絵画などそれぞれが得意とする芸術で世界を変えることを誓い、夢を熱く語り合った。

 芸術の中ではデッサンが好きで、撮影中にもトールキンが描いた挿絵を模写したというニコラスだが、彼もまた友情の大切さを感じている。

「それはバスケットボール部で育まれた絆でした。お互いにしか分からない略語や言い回し、コミュニケーション手段があった。そんな友情は今日も続いています」

 愛と友情の物語である今作はそんな彼の自信作だ。

「友情、愛、仲間意識、創造性といったテーマは、どんな時代においても観る者を触発するものです。アウトサイダーとしての側面や、孤独から始まり、やがて人生を共に歩んでいく人々と出会うというこの物語に、きっと共感してもらえるはずです」

◎「トールキン 旅のはじまり」
J・R・R・トールキンの激動の半生を描く。全国公開中

■もう1本おすすめDVD 「いまを生きる」

 トールキンが仲間と結成したT.C.B.S.で夢を語り合う姿を見て真っ先に思い浮かぶのは、ロビン・ウィリアムズ主演でアカデミー脚本賞を受賞した「いまを生きる」。ドメ・カルコスキ監督も好きな映画として挙げている。

 全寮制の厳格な名門校に赴任してきた型破りな教師と生徒の物語。原題のデッド・ポエッツ・ソサエティ(死せる詩人の会)は、そんな教師の教えに刺激を受けた生徒たちによる、洞窟で詩を朗読し合う秘密クラブである。

 最初は戸惑う生徒たちも「今を生きろ、若者たちよ。すばらしい人生をつかむのだ」と教えられ、夢を大切にすること、自分の頭で考えること、限りある命を精一杯生きることを学んでいく。そしてそんな彼らにやがて大きな試練が訪れる。

 ラストは映画史に残る名シーンだ。随所で引用されるウォルト・ホイットマン、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、ロバート・フロストなどの数々の名言には、思春期の子どもだけでなく、大人もまた、年を重ねたからこそ心を揺さぶられるのである。

 今年で公開からちょうど30年。人生の節目にふと観たくなる名作だ。

◎発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
価格1429円+税/DVD発売中

(ライター・野津千明)

AERA 2019年9月9日号