グランフロント大阪につくられた広大な池。1961年の第2室戸台風では高潮・洪水で一帯は浸水した。河田さんは「風土を無視した都市開発だ」と指摘する(撮影/編集部・野村昌二)
グランフロント大阪につくられた広大な池。1961年の第2室戸台風では高潮・洪水で一帯は浸水した。河田さんは「風土を無視した都市開発だ」と指摘する(撮影/編集部・野村昌二)

 秋雨前線が活発になり台風の時期とも重なる秋は、豪雨に注意が必要だ。とりわけ地下鉄の駅や地下街は浸水のリスクが大きいという。

【特集】東名阪の弱点 浸水する駅171はこちら

*  *  *

 地下街への浸水も、リスクが大きい。99年の福岡水害では、福岡市中心部を流れる御笠川があふれ、JR博多駅周辺が浸水。ビルの地下で逃げ遅れた女性が死亡した。

 防災研究の第一人者として知られ、『日本水没』(朝日新書)の著書もある関西大学社会安全研究センター長の河田惠昭(かわたよしあき)さんは言う。

「現在、日本には116万平方メートルの地下街があり、それらの多くが海面より地面が低いゼロメートル地帯に広がっている。しかも最近は、バリアフリー化が進み、水は簡単に地下街に浸入してくる」

 各地下街がある駅の浸水深を、洪水と津波による浸水想定エリアを国土地理院がインターネット上で公開するハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」で確認すると、八重洲地下街がある東京駅は0.5メートル未満、横浜駅東口地下街(ポルタ)のある横浜駅は1~3メートル、新幹線地下街エスカのある名古屋駅は0.5~3メートル、ホワイティうめだのある大阪駅は3~5メートルとなっている。地上にたまった水は直下の地下街に一気に流れ込む可能性がある。

 もっとも、地下街も対策を進めている。東京駅近くの八重洲地下街は、大雨・洪水警報が発表された時は、3段階に分け、各段階で必要な対応策を取る。「注意」で降雨の状況に関する情報を集め、「警戒」で雨水を止める板や土嚢を設置し、「非常」は利用客や従業員らを避難させる。ホワイティうめだなど大阪・梅田の地下街を運営する会社「大阪地下街」では、ゲリラ豪雨の時は止水板と土嚢(どのう)を設置するなどし、津波の場合は、止水板などによる対応では限界があるので避難誘導を優先する。

 しかし、河田さんは、日本は過去に地下空間の大規模水害を経験していないため、今後も起こらないかのような錯覚に陥っていると指摘する。

「例えば、ホワイティうめだなどにつながるJR大阪駅北側の複合施設『グランフロント大阪』の広大な池は、地下街に向かって階段上を水が流れ、地下1階で貯水し、ポンプアップして循環させる構造になっている。地上が大規模に浸水すれば、池からの氾濫水が地下街に流れ込んで水没は避けられない」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年9月9日号より抜粋

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら