「相手の方がまだ若かったんです。ずっと泣いてくれて足が生えてくるならそうしてほしいけど、そうじゃないし。『仕方がないじゃないですか。こんなかたちで会いたくなかったですね』と伝えました。彼らがこれからどんな思いで毎日を過ごすかを考えると、責める気には全くなれなかった」

 兵庫県立リハビリテーション中央病院に転院してから、田中さんは自分と同じように足や手を切断した人たちと出会う。

「義足で生活する人と話す中で、少しずつ今後の自分が見えてきました。けれど、右足のない自分を本当に受け入れられたのは、仮義足をつけたとき。車椅子から降りて、残った右足を仮義足にのせたらスッと視線が高くなって。この義足を含めた姿でこれから生きていくんだと実感したんですよね。乗り越えたというより、右足のない人生を受け入れた瞬間でした」

 義足にもすっかり慣れた10年。たまたま見ていたスポーツ番組の特集でアンプティサッカーの存在を知り、こんなスポーツがあったのかと衝撃を受ける。

 田中さんはすぐにアンプティサッカーの体験会に参加。そこで出会った選手やスタッフとともに、12年に関西を拠点とするチーム「関西セッチエストレーラス」を立ち上げた。

「片足でプレーするから、通常のサッカーとは当然違う動きになるし、杖で表現するスピード感、なにより迫力があるんです」

 アンプティサッカーは残存下肢、体幹機能、心肺機能のすべてをフル活用するスポーツ。健常者が同じ条件でプレーすると、はじめての人は5分も動けないとも言われるほどで、実際のプレーを見ると、その迫力に圧倒される。

 クラッチとクラッチが当たって放つ鋭い音、選手たちの激しいぶつかり合い、片足で操るトリッキーなドリブル、アクロバティックなボレーシュート……。障がいのある部位をかばうどころか、そこが弱点とばかりに攻撃する選手たちの力強い姿が見る者の心を打つ。

「障がいの状態はみんなさまざまで、手と足でも全く事情が違ってきます。ゴールキーパーは片手しか使えないから、ゆるいボール以外は弾くしかない。こっちも手がないほうを狙うし、弾かれたボールを拾いにいくので、ゴール前の接戦が必然的に激しくなるんです」

(ライター・藤田幸恵)

AERA 2019年9月9日号より抜粋