それだけでなく、アウトドアでの経験は災害時の大きな力になる。例えば、パニックにならず、平常心でいられる力。災害で一番怖いのはパニックです。助かるチャンスがあっても、落ち着いてあたりを見渡せなければそれに気づけません。アウトドアはプチ・ピンチの連続です。少ない道具で料理を作ったり、火をおこしたりしなければいけない。雨が降ってきたら、いかに快適に過ごすか考える。そんな状況を経験しているだけで、いざというときの景色の見え方が違います。

 最近の子どもたちは、昔と比べてアウトドア体験が圧倒的に不足しています。小学生から高校生の43%がキャンプをしたことがなく、20%が昆虫を捕まえたことがないという調査もあります。僕も子ども向けの自然体験活動をしていますが、プチ・ピンチを経験していない子は何かあったときの対処ができない印象が強いですね。転覆したカヤックからの脱出訓練で、海に沈んでもパドルを握りしめたまま動けない子、山でバランスを崩してもとっさに手を出せない子が少なくありません。

 アウトドアを親子で楽しむことで、家族のコミュニケーションが深まるのもメリットです。僕も、自宅では娘と深い話ができませんでしたが、一緒に山に登りながらきずなが深まっていきました。災害は家族とともに立ち向かうもの。一緒に楽しんできずなを深め、自然と防災力が身につけば、一石三鳥です。

(編集部・川口穣)

AERA 2019年9月9日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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