激しい雨で冠水した道路を歩く人たち。その横を通る自衛隊のボートは自力で避難できない人たちの救助に向かった/8月28日、佐賀県武雄市で (c)朝日新聞社
激しい雨で冠水した道路を歩く人たち。その横を通る自衛隊のボートは自力で避難できない人たちの救助に向かった/8月28日、佐賀県武雄市で (c)朝日新聞社

 地震や水害など、日本各地で様々な災害が起こっている。誰しも被災者になる可能性がある今、必要なのは災害に備える「備災力」だ。

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 災害をリアルな自分事として考え、対策を見つけ出す取り組みは実際に各地で行われている。7月中旬、多摩川が流れる大田区の東糀谷(ひがしこうじや)防災公園の管理棟集会室で「マイ・タイムライン講習会」が開かれた。

 水害の発生を予想して、「いつ」「何をするか」事前に行動計画を組み立てておくのが「タイムライン」。その個人版が「マイ・タイムライン」だ。

 大田区では、昨年の西日本豪雨を受け、今年度から区内全域で順次、マイ・タイムライン作成の講習会を始めた。同区総務部防災支援担当課長の伊藤剛さんは、狙いをこう話す。

「水害のリスクを事前に想像してもらい、いざというときに一人一人がどう行動すればいいか考えるのに役に立ててほしい」

 この日は、糀谷地区の住民を中心に45人近くが参加し、河川情報センター(東京都)の職員の説明を受けながらマイ・タイムラインづくりを体験した。地域の過去の水害や地形、河川の氾濫情報などを把握した上で、氾濫が起きる時間を「0時間」として、3日前まで遡(さかのぼ)り対応を決めていく。

「3日前には防災グッズを確認しないと」「半日前には常備薬を用意しよう」「スマホの充電とバッテリーの準備も大切だな」

 数人の班に分かれた参加者たちは想像を膨らませながら台風が発生したときに何をすればいいか、いつ何を準備すればいいかなどについて話し合い、それぞれのマイ・タイムラインを完成させた。区内在住の松原茂登樹(もとき)さん(65)はこう話した。

「いつも見ている多摩川が、大雨が降ると氾濫して町の広い範囲が浸かるとわかった。水害のリスクを改めて考えることができました」

 備災の大切さは、被災者自身も口をそろえる。

 8月下旬、九州北部を襲った豪雨。福岡県南部のみやま市に住む主婦の石橋ひろこさん(45)は、大雨が今後1週間近く続くというニュースが流れた26日、自身と夫(55)の車のガソリンを満タンにし、雨が激しさを増した翌27日には、娘(16)の分も含めた着替えや毛布などを車に積み込んだ。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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