送り出す会社、受け入れるベンチャー、そして出向する本人がウィンウィンになる結果を生むには入念な準備が欠かせない。ローンディールでは出向が決まった社員向けの研修で、これまで大切にしてきた価値観は何か、ビジネスパーソンとしてどうありたいのか、出向先でどんな貢献をし、どんなインプットを得たいのか徹底的に問いかける。その過程で前出の内海さんは「自分だけでなく、周りの人も幸せにしたい」と思っていることに改めて気づいた。

「38歳にもなってそんなことを口に出すのは恥ずかしかったのですが、ある意味自分を再発見し、人生のターニングポイントになりました」(内海さん)

 一方、鐺さんは学生時代から自分の過去を振り返り「社会的マイノリティーを救うこと。知的好奇心を満たすこと。挑戦すること」を大切にしてきたと気づき、それを行き先のベンチャーを選ぶ際の軸とした。

 9月から働くのはテレイグジスタンス。ロボットやVR(仮想現実)の技術で作り出した分身で、長期入院中の子どもが家族と旅行できるといった夢の実現を目指すベンチャーだ。

「出向する皆さんは大きく変わって戻ってきます。その変化を大企業側が組織全体の変革にどう結びつけるかが重要です」

 ローンディールの原田未来社長はそう指摘する。そのため同社では昨年から、出向社員の直属の上司たちを対象に、戻ってきた社員のアイデアを生かす方法や、評価法などについて学び合う研修も実施している。

「社員の挑戦を『うちはベンチャーとは違うから』と冷ややかに見たり、ベンチャーでトライアンドエラーの経験をしてきたのに、戻った途端、失敗を減点評価するようではダメ」(メンター兼研修担当の後藤さん)

(編集部・石臥薫子)

AERA 2019年9月2日号より抜粋