清掃人・新津春子(撮影/岡田晃奈)
清掃人・新津春子(撮影/岡田晃奈)

 国際的なランキングで4年連続「世界一清潔な空港」の1位に輝いた羽田空港。その清掃指導者として、メンバー500人に清掃法の指導をするのが新津春子さん(49)だ。社内の清掃員の中で唯一「環境マイスター」の肩書を持ち、その清掃法は80種類の洗剤を駆使し、目に見えない部分のどんな細かい汚れも見逃さない、まさに「職人技」。海外のメディアが「国宝級」と称賛したほどだ。

その新津さん自身も、毎朝、出社前の5時から6時という決まった時間に、自宅の掃除をするのが習慣になっているという。

「1時間と決めることがコツです。この時間は必ずやる!と決めないとだらだら1日が進んでしまう。毎日同じ時間だけ同じことを繰り返すことが、自分の体を維持することにもつながり、1時間ならストレスもたまらない。体も自然に覚えて、習慣としてやるようになります」

 新津さんの持論は「清掃を習慣にすることで、人生も変えられる」。

「きれいな空間にすることできれいな気持ちになれるから、嫌なことも忘れられる。自分のため、好きな人のため、親のため、子どものため、何でもいいので、まずはタオル1枚を手に『動く』。動くことによって、また自分に還(かえ)ってくる。その還ってくる回数がどんどん増えることが楽しさだと思います」

 そんな清掃のプロの彼女だが、かつて上司からこんなことを言われたことがある。

「あなたの清掃には、やさしさが見えない」

 当時は戸惑うばかりで、まったく理解できなかったという。

 中国残留日本人孤児の父親を持ち、中国で生まれ育った新津さん。清掃を始めたきっかけは偶然だった。17歳で、家族5人で来日。言葉が通じない中、できることは「掃除」というのが家族会議の結論で、高校時代からアルバイトを始めた。

 清掃員としての大きな転機が、27歳の時に「全国ビルクリーニング技能競技会」で1位になったこと。大会前の2カ月間は月曜日から金曜日まで、仕事を終えた夕方5時から夜の9時半まで、上司と一対一で猛練習を重ねた。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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