人形美術家・川本喜八郎による英雄たちの人形も展示。飯田市川本喜八郎人形美術館蔵 (c)有限会社川本プロダクション(撮影/門間新弥)
人形美術家・川本喜八郎による英雄たちの人形も展示。飯田市川本喜八郎人形美術館蔵 (c)有限会社川本プロダクション(撮影/門間新弥)

 東京国立博物館で開催中の「三国志」展が大盛況だ。10月からは九州でも開催される。レアな展示品も多数あり、展示の順番などにも「まるでタイムスリップしたかのよう」に没入できるよう、工夫が凝らされている。

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 最大の目玉は曹操高陵の出土品で、中国国外では初めての公開。曹操の墓だとの特定につながった「魏武王」と刻まれた石牌や、「罐(かん)」とよばれる小型の貯蔵器などが展示される。

 曹操高陵の墓室の一部を実寸大で再現したコーナーもあり、まるでタイムマシンに乗って古代中国に時間旅行に出かけているかのような気分を味わえる。

 一方で、各章の冒頭にはおなじみの横山光輝の漫画『三国志』の原画を展示し、川本喜八郎のNHK「人形劇 三国志」の人形も要所要所に配置した。なじみのあるものをおくことで、考古学的な文物から血の通った物語をイメージしてほしいという配慮だった。

東京国立博物館学芸研究部調査研究課東洋室主任研究員で、今回の展覧会を企画した市元塁(いちもとるい)さんはこのように語る。

「こうした漫画や人形劇も、発展し続ける三国志のひとつの形。そこはしっかり紹介したいと思いました」

 三国志を題材にしたエンターテインメントは、枚挙にいとまがない。前述の横山・川本作品の他にも、吉川英治の小説『三国志』、コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーションゲーム「三國志」「真・三國無双」シリーズなど、世代を超えて人びとを魅了している。その魅力はどこにあるのか。冒頭の男性はこう語る。

「敗者の美学や裏切り、嫉妬などいろいろな要素がありますが、登場人物も多様で一言では言いあらわせない。激動の時代における人びとの生き様が、まざまざと浮かび上がってくるんです」

 なぜ魏が勝ち、蜀は敗れ、呉は自滅したのか──。変革期の時代を生き延びるため、英雄たちはどのように身を処していたのか。当時の人事制度や人脈の作り方までつぶさに迫った『人事の三国志』(朝日選書)の近著がある中国古典が専門の渡邉義浩・早稲田大学文学学術院教授(57)はこう言う。

「三国時代は諸将たちが戦いを繰り広げるイメージがありますが、戦争ばかりしていては国が滅びます。その裏には戦争を支える文官がいて、文官たちの出世を支える人事のシステムがあるんです」

 魏・蜀・呉(ぎ・しょく・ご)は同じ時代に同じ制度を継承して誕生したにもかかわらず、国の内実はまるで違うのだという。

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