形成外科時代の中嶋医師は、頭蓋骨や顔面骨の外傷、先天性の変形や病気などを治療してきた。機能はもちろん、見た目の回復も求められる。手術を繰り返し、かなりの段階まで改善されても、本当に満足できる患者はほとんどいなかったという。

「手術によって1の段階を7や8にすることはできます。しかし本人が満足できる10の状態にすることは難しい。美容整形も同じで、ある程度までは希望の形に近づけることはできても、完全に思い通りの容貌にすることは患者と医師が別人格である以上不可能であり、どこかで折り合いをつける必要があります。外観、形の問題は、結局は心の問題なのです」(中嶋医師)

 美容整形依存に陥ってしまう人には、リストカット、摂食障害、家庭内暴力、不登校など、その他にも問題を抱えているケースが多いと中嶋医師はいう。20代、30代であっても、根本に思春期の課題を抱えたままである場合が少なくない。また容姿の美しさを自らのアイデンティティーとして生きてきた人も、依存に陥りやすい。

「顔さえ変えれば全てがうまくいくはずと思い込んでいますが、そういう人が顔の一部を変えたところで根本の問題は解決されず、どこまでいっても満足は得られません。治療は、人の魅力は外見だけではないと理解し、内的な自分に目を向けること。思考の仕方を変えることを訓練し身につけ、そして小さな成功体験を積み重ねて自己肯定感を持つことから始まります」(同)

前出の長野さんは、整形したら自分に自信が持てるようになると思っていたが、そうはならなかったという。

「整形したことでさらに自信がなくなったというか、周りの目も気になるようになった。今は『整形したのにそれ?』って言葉に、傷ついてしまう」

 後悔はしていない。「この顔でいい」と思っている。だが、世の中にかわいい人は山ほどいる。「高評価するほどでもない」というのが、自分の顔に対する長野さんの評価だ。

「結局、モテるのは自信がある人。私は自信がないからモテない。でも、今は仕事も順調だし、友達と遊ぶのが楽しくて、毎日が充実している。もう整形はしなくていいと思っています」

(ライター・石村紀子)

AERA 2019年9月2日号