受賞者の今村夏子さん(右)と大島真寿美さん(撮影/写真部・東川哲也)
受賞者の今村夏子さん(右)と大島真寿美さん(撮影/写真部・東川哲也)
高樹のぶ子さんからのエールに笑みを見せる今村夏子さん(撮影/写真部・東川哲也)
高樹のぶ子さんからのエールに笑みを見せる今村夏子さん(撮影/写真部・東川哲也)

「やっぱり芥川賞ってすごいなと思いました」

【写真】高樹のぶ子さんからのエールに笑みを見せる今村夏子さん

 第161回芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」の著者今村夏子さん(39)は、23日に開かれた贈呈式の受賞スピーチで、そう語った。

 受賞作とともに書店に並んだ今村さんの顔写真入りのPOPを見て、音信不通だった友人から携帯電話にメッセージが届き、「好きなことが見つかって良かったね。うれしいよ」という言葉をもらったことを明かした。

「たったこれだけのやりとりですが、何かとても大きなプレゼントをもらったような気持ちになりました。『好きなことが見つかってよかったね』という言葉は、初めて言われました。ずっと大切にしたいと思います」(今村さん)

「むらさきのスカートの女」は、近所でも風変わりで有名な<むらさきのスカートの女>が気になって仕方ない<わたし>が彼女と<ともだち>になるべく、あの手この手で同じ職場に誘い込んでいく物語だ。選考委員の高樹のぶ子さんは、受賞作を「さまざまな読み方があった」と評価し、こう続けた。

「追いかける女と追いかけられている女の関係性を想像し、同一人物、あるいは別の女なのか、その謎がいまだに解かれていない。(今村さんは)中途半端にばらさず、あの世まで持って行くのではないかと思います」

 緊張した今村さんの表情が和らぐシーンもあった。今村さんの「妄想力」の大きさから、一つのところに立ち続けてしまうのではないかと懸念しているという高樹さんが、“トカゲ”を例にアドバイスした時だ。

「同じところに立っていると、自分の知らないうちにその場に身体が沈み込んでいきます。バシリスクというトカゲは、水の上を後ろ脚だけで走ります。右足が沈む前に左足を出す……ということを一生懸命やるうちに、知らないうちに結構遠くまでいける。今、芥川賞をもらわれて、立っているところから、走り出してもらいたい。これから先はバシリスク夏子と、バシリスクのぶ子が、よーいドンで走り出します」

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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