若手では「映画 聲(こえ)の形」(16年)のヒットで注目された山田尚子(34)は、先の痛ましい放火事件で多くの犠牲者が出て、いまも全世界から追悼と支援が寄せられている京都アニメーションに所属している。

 スタジオという集団のなかでは個人の内的世界や趣味、カタルシスをある程度一般化する必要があるが、新海はデビュー時から一貫してその必要なく作品を作り続けてこられた稀有な例なのだ。

 新海以降、自主制作からメジャーになる監督も登場し始めている。昨年公開された「ペンギン・ハイウェイ」の石田祐康(ひろやす)(31)もその一人。長編デビュー作ながら公開規模が193館と大きく、声優に蒼井優ら、主題歌に宇多田ヒカルの楽曲を起用したことなどでも話題になった。

「空の青さを知る人よ」(10月11日公開)が控える長井龍雪(たつゆき)(43)も、スタジオ出身ではない。「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(13年)、「心が叫びたがってるんだ。」(15年)で知られる注目株だ。

 デジタル環境が整い、個人でアニメーションを作ることが容易になったこと、さらにそれを発表するネットなどの媒体が整ったことも大きい。

 その顕著な例が新海が用いている「ビデオ(V)コンテ」という手法だ。通常は監督が脚本をもとに絵コンテを描き、それが作品の全体図になるが、Vコンテは絵コンテで描かれた絵を撮影し、セリフや音を合わせる。作品のイメージを共有するために作る「動く絵コンテ」だ。新海はより完成形に近いものを第三者やスタッフに見せ、周囲の意見を参考に脚本をアップデートするが、展開や結末を変えることはないという。

 自分を貫きながら、時代の声や空気を敏感に拾って作品を生み出す。その芯の通った姿勢がSNS時代の人々の心を捉えるのかもしれない。

 前出の津堅さんは、これからのアニメ界を牽引する存在として、石田祐康と「サカサマのパテマ」(13年)の吉浦康裕(やすひろ)(39)に注目している。

「ともに30代。自主制作で注目され、その後長編アニメを手がけ、デジタル技術を独自のタッチで駆使するなど共通点が多い。次作が楽しみな存在です」

(文中一部敬称略)(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年8月26日号