Kathleen Flinn/作家・ジャーナリスト・料理家。2005年にフランスの名門料理学校ル・コルドン・ブルーを卒業(撮影/東川哲也・東川哲也)
Kathleen Flinn/作家・ジャーナリスト・料理家。2005年にフランスの名門料理学校ル・コルドン・ブルーを卒業(撮影/東川哲也・東川哲也)

 料理家のキャスリーン・フリンさんによる『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』は、料理家ながら魚を扱うのが苦手だった著者が来日し、築地市場やすしアカデミーで「サカナ・レッスン」を受けながら人生を再発見していく瑞々しいルポだ。著者のフリンさんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 2017年、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』がベストセラーとなり、来日してテレビ出演し、読者とも交流したキャスリーン・フリンさん(52歳)。その後もSNSで日本のフォロワーとやりとりを重ねるなど縁を深めてきた。そんな彼女の最新刊は、再来日して築地市場を見学・取材し、すし職人の学校で凄腕職人に教えを受け、愛読者のキッチンでサンマづくしの料理をご馳走になるというユニークなルポである。

 彼女に指導したのは、築地市場を案内した元・競り人の石井久夫さん、東京すしアカデミーの講師で、どんなすしを握ってもきっちり27グラムになるという「ミスター27グラム」こと村上文将さん、前著の読者でもある料理好きのクンペイさん。

「それぞれのキャラクターを引き出せたのは私が外国人だったからかもしれません。3人はとても率直で、私に日本のサカナ文化を教えたいと心の底から思っていることがわかりました。食べることが好きで食べ物が好き、サカナが好き。好きだからこそ情熱があるんです。私もそういう気持ちを持って、サカナにせよ料理にせよ考えていきたいという気持ちをもらうことができました」

 料理家として活動し、魚料理を作っていたものの、生魚の扱いが得意とはいえなかったキャスリーンさん。しかし、果敢に魚をさばき、すしを握るうちに食べ物への感謝が湧きあがってくる。それによって、人生が思いがけないほど豊かになったという実感があった。以前の自分はもう<過去>になったのだ。

 本が終章に近づいた頃、読者が驚く場面がある。帰国後、「口にする生き物にもっと近づきたい」という気持ちからフロリダで釣りをしていたとき、突然釣り好きだった父の思い出が湧き上がってきたのだ。13歳の時、父は病死し、その後母は再婚。両親と過ごした思い出の家には義父がやってきた。義父の死後、家を自分が買い取りたいと伝えたのに、母はなぜか安い値段で不動産会社に売り払ってしまった。思い出すうちキャスリーンさんは激しく泣き出す。

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