吉田鋼太郎演じる黒澤武蔵も牧もすごく家事能力が高い人として描かれていた。身の回りのことが全くできない春田の世話を、2人がせっせと焼く。ルームシェアと言いながら、洗濯、掃除、料理はすべて牧、春田は「うっめー」と身もだえしながらから揚げを食べるばかり。黒澤も負けじと、春田に弁当を作ってくる。「はるたん」と書かれ、さながらキャラ弁だ。
家事能力と愛情の交換?
そこだけは、最後までモヤモヤしてしまった。
とはいえ、「おっさんずラブ」が果たした功績は大きいと思う。それは、日本のドラマ界に「男×男の恋愛もの」という分野を築いたこと。そう思っている。
この4月に始まったドラマだけで「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ系)、「腐女子、うっかりゲイに告る。」(NHK)、「きのう何食べた?」(テレビ東京系)があった。少なくともドラマの分野で、「男×男」は普通になった。
そのなかで我が一押しは、「きのう何食べた?」だった。よしながふみの同名漫画を原作に、内野聖陽と西島秀俊のゲイ同士のカップルを描く。内野はカミングアウトしている美容師、西島はしてない弁護士。一緒に暮らす2人。切なく温かいドラマだった。
ある時、内野のインタビューを読んだ。「2人はベッドではどうなのかな?とか、そういう話」を西島としている、と語っていた。「あ、これ、おっさんずラブになかったとこだ」と思った。
「おっさんずラブ」はお祭り、ワッショイワッショイと進んでいった。「きのう何食べた?」は静寂の中で、愛とは生きるとはと考えさせられた。
進化する「男×男」のドラマ。はじめの一歩は「おっさんずラブ」。次にどこへ行くのか。劇場で確かめていただきたい。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2019年8月12・19日合併増大号より抜粋