「劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD」は8月23日から全国ロードショー。特典つきの前売り券は3万セットが1週間で完売したという (c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
「劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD」は8月23日から全国ロードショー。特典つきの前売り券は3万セットが1週間で完売したという (c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
主要キャラクター3人に加え、劇場版では新たに山田正義役で志尊淳、狸穴迅役で沢村一樹が出演する (c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
主要キャラクター3人に加え、劇場版では新たに山田正義役で志尊淳、狸穴迅役で沢村一樹が出演する (c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会

 8月23日公開の「劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD」。「おっさんずラブ」こそ、いま隆盛する「男×男の恋愛もの」という新ジャンルの旗手だった。「おっさん」たちの恋愛模様が、なぜ働く女性の心をわしづかみにしたのか。

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 このドラマの特徴、否、特長としてあげたいのが、登場人物がみな「男と男」の恋愛に偏見を持っていないという点だ。これこそ「ファンタジー」かもしれないと思う。

 初回、田中圭演じる春田創一と幼なじみの荒井ちず(内田理央)が居酒屋で話す。「春田」「ちず」と呼び合う関係だ。ちずが「告られたって?」と春田に言う。「でも相手はおっさんだよ、部長だよ」と、春田が答える。ちずはこう返す。

「社内恋愛が嫌なの? 年上だから?」

 同じシチュエーションでこう返す自信、私はない。が、「男だからだよー」と答える春田に、ちずは「好きになるのに男も女も関係ないでしょ」と言う。

 えらいぞ、ちず。えらいぞ、制作者。ドラマを見ながら、心で拍手した。プロデューサーは、テレビ朝日の貴島彩理さんだった。オンエア当時、28歳。劇場版にも「プロデューサー」として名を連ねている。

 ドラマが評判になるにつれ、貴島さんはインタビューを受けることが増えていった。よく語っていたのが、「BL(ボーイズラブ)でなく、今どきの働く男女の恋愛がテーマ」ということだった。「同性であることを忘れるほど素晴らしい人が現れた時、人はどうするのだろうと思ったのが企画の出発点」ということも語っていた。

 そのテーマをはっきり打ち出すには、偏見のある人物の存在は不要と判断したのだろう。ドラマの中で、「男×男」という事態に一番戸惑っているのは、春田本人だ。次第に林遣都演じる牧凌太に引かれていくが、気持ちに頭が追いついていけない。ちずと牧との間で、心が揺れたりもする。

 視聴者の一人として、春田と同様、事態に追いつけない感じはあった。なぜ、春田は牧に引かれていくのか? 今ひとつ、はっきりしない。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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