「これは母から譲られた着物です。着物は日本の伝統文化です」

「これは5歳の孫に仕立てた着物。着物は、伝統であり、愛情です」

 反応の多くは、「着物」という名称を「下着」のブランドに使われたことへの違和感や憤りが原因とみられる。一方、アメリカでは、もっと大きな文脈でこの騒動が議論されていた。

●欧米で炎上の「文化盗用」白人による抑圧を象徴

「カルチュラル・アプロプリエーション」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。アプロプリエーションとは、私物化、独り占め、横取り、といった意味を持つ英単語で、直訳すれば「文化の盗用」となる。

 近年、炎上した例にはこんなものがある。ディズニーが、映画「モアナと伝説の海」の主要キャラクター・マウイの褐色の肌にタトゥーをあしらったハロウィーン衣装を売った。デザイナーのマーク・ジェイコブスが、ファッションショーで、ドレッドヘアのアレンジを施した白人モデルらを出演させた。ロックバンド「ノー・ダウト」のミュージックビデオで、白人女性シンガーが、ネイティブアメリカン風の髪飾りや衣装を着て、炎やテントを背景に熱唱した。

 何が問題なのか? どこが悪いのか? そう思った人もいるだろう。一つひとつ説明する。

 マウイのハロウィーン衣装には、南太平洋の島々にルーツを持つ人たちが怒った。「私たちの肌は衣装じゃない」。マオリ族の人権活動家はニュージーランドのメディアで、タトゥーは家族の起源や偉業を象徴する神聖なものだとして、「死人から服を剥ぎ取って着るに等しい行為だ」と批判した。ディズニーは謝罪し、販売を中止した。

 ファッションショーには、黒人が声をあげた。歴史的に、奴隷として売り買いされ、強制労働に従事させられ、解放後も激しい人種差別を受けてきた。差別はいまも続く。その痛みを無視して、黒人文化を象徴するドレッドヘアをパクるとは、盗人猛々しいという批判だ。これに対して、マーク・ジェイコブスは、非難する人たちは「心が狭い」、自分は「肌の色や人種にとらわれない」といったん反論。その後、「配慮がなかった」と謝罪した。

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