「肝は、車軸から前キャスターにつながるメインパイプの縦方向の剛性です」

 と教えてくれたのは、国枝選手も担当する営業部の安大輔さん(44)。こう続ける。

「車いすテニスは急なターンが多いため、縦剛性が低いと、車いすがしなってパワーが逃げてしまうことがある。一方で、剛性を重視しすぎて車体が重くなると走り出しが遅くなる。剛性と軽さの適切なバランスが鍵になります」

 求められる剛性は競技によって異なり、例えば車いすバスケの場合は、全体の剛性を高めにつくるという。

 選手個々の障害や体格に合わせたフルオーダーで製作する。「選手のプレーのイメージを聞き、ないものを具現化していく作業」(安さん)といい、例えば国枝選手は東京に向けて、体にフィットする容器型座席を要望。試行錯誤しながら1年かけて開発した。

 同社は陸上用3輪車いす「レーサー」も世界のトップ選手に供給し、バスケ車やバドミントン車も製作。パラリンピックで同社の車いすを使った選手のメダルは122にものぼる。「多くの選手が使ってくれることで知識、技術も蓄積される」と安さん。この好循環で、東京でメダル数がどれだけ伸びるかにも注目だ。

●ホンダ

 自動車レースの最高峰、F1で今季勝利したホンダが4月、技術を集結して発売した陸上競技用の車いす(レーサー)が「翔(かける)」だ。

 カーボン素材を使用し、フレームとボディーを一体化した「モノコック構造」の技術は、F1や小型ビジネスジェット機の開発で蓄積されたもので、軽量化と剛性を両立させた。総重量は8.5キロとアルミ製より約1割軽く、加速性能に優れている。本田技術研究所主席研究員の竹中透さん(61)によると、カーボンの特性が路面からの振動を吸収するため、マラソンなど路上を走る際にも走りが安定し、ハンドル操作が最小限で済むため、選手はこぐことに集中できる。

 ホンダ製レーサーに乗るマニュエラ・シャー(スイス)は昨年女子マラソンの世界記録を更新した。

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