【テニス】小回りがきくようタイヤは「ハ」の字に傾く。傾きは他の競技用車いすと比べて最も大きく約20度。選手同士の接触もないので、前面にバンパーはついていない(撮影/写真部・松永卓也)
【テニス】小回りがきくようタイヤは「ハ」の字に傾く。傾きは他の競技用車いすと比べて最も大きく約20度。選手同士の接触もないので、前面にバンパーはついていない(撮影/写真部・松永卓也)

 パラリンピック競技で選手の足となる車いす。求められる性能は競技ごと、選手ごとに千差万別だ。それに応えるのが、日本企業の技術力。先端素材、独自の発想、いぶし銀の職人技。各社のこだわりが、熱戦を支える。

【熱戦を支える!国内メーカーの競技用車いすを一挙ご紹介】

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●松永製作所

 2018年8月、車いすバスケットボールのイギリス代表が日本製の車いすを採用すると発表した。イギリスは16年のリオパラリンピックで男子が銅メダル、女子が4位に入賞した強豪国。海外メーカー2社の車いすとタイムや選手の乗り心地などで比較した結果、採用されたのは岐阜県養老町にある従業員200人にも満たない中小企業、松永製作所の車いすだった。

 松永製の最大の特徴は業界唯一の「セミアジャスタブル機能」だ。通常、競技用車いすはフレームを溶接して一体化させて作るが、松永製は自分で調整できるよう、フレームを分割していて、座面の角度や車軸の位置をネジで変更できる。自らも車いすでバスケやバドミントンを楽しむ開発者の廣瀬昌之さん(50)は言う。

「選手の車いすの操作能力がアップしたり、状態が変化したりした場合にも、常にベストポジションに調整できるようにしたかった」

 ユーザー目線に立って開発した機能は、さらなる性能を生み出した。それが「しなり」だ。全てを溶接で固めていないため、ターンの際にもタイヤが浮き上がる心配が少なく、スピードを緩めずに思い切って曲がることができる。

 こうした性能が支持され、リオパラリンピックの日本代表12人のうち8人が松永製の車いすを選んだ。

 営業の榎本和浩さん(40)は言う。

「世界トップレベルの選手たちにうちの製品が認められたというのは本当にうれしい。選手たちの声をフィードバックしながら、さらにいい車いすを作っていきたい」

●オーエックスエンジニアリング

 パラリンピック車いすテニスシングルスで2大会連続金メダルを獲得し、7月1日現在の世界ランキング2位の国枝慎吾選手(35)が愛用する車いすは、オーエックスエンジニアリング(千葉市)製だ。リオパラリンピックに出場した車いすテニス選手の9人中8人が同社製を使用するなど、国内で高いシェアを誇る。

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