「脂肪酸やミネラル、アミノ酸とうつの関連も、国内外の研究で指摘されています」(功刀医師)

 東京・新宿溝口クリニックの溝口徹医師は、1998年にいちはやく精神疾患の治療法に栄養指導を取り入れた。指導を受けた女性(53)に話を聞いた。

 女性は97年に長男を出産した後、疲労感と抑うつ状態から自宅で寝込む日が続いた。病院で血液検査をしても異常は見つからず、家事や子育てに支障が出た。夫に「怠けている」と罵倒され、長男が2歳半くらいのとき、長男を連れ実家に帰った。

 うつの治療はなかなかうまくいかなかったが、06年に心の病と栄養との関係を指摘した溝口医師の著書を読んで、新宿溝口クリニックへ駆け込んだ。

 体の栄養状態を知るための血液検査では、鉄分、ビタミンB群、ビタミンC、たんぱく質などが不足しているとわかった。

 これまでの炭水化物を中心にした食事を改め、不足していた栄養素はサプリメントで補った。数年後症状はなくなり、夫がいる自宅に戻ったという。

 栄養改善によるアプローチは、60年代にカナダの精神科医が提唱したのが始まりだ。が、「現在もまだ浸透している治療法とは言えない」(功刀医師)という。

「うつは一つの原因だけで発症するものではありません。その点も十分に踏まえ、睡眠や運動などの指導とともに治療方法を検討するべきです。ただ、食事による治療はもっと注目されてもいいと思います」(功刀医師)

 医食同源という。健康的な食生活が体の、そして心の健康の足を引っ張るはずはない。(編集部・小田健司)

AERA 2019年8月5日号