便宜置籍船は、法的には船籍を置く国の主権下にある。つまり日本ではなく他国の船だ。海上自衛隊が他国の船を護衛し、もし攻撃を受ければ戦闘することが自衛権の範囲と言えるかどうかには疑問がある。

 日本の船会社は実質的には船の所有者だが、法的には海外子会社への出資者に過ぎない。もし日本企業が外国に持つ資産、権益を武力で守るのが自衛ならば、仮に中国にある日系企業の工場が戦乱、暴動などで破壊されそうな場合、自衛隊を派遣して守ることも自衛となる。逆に日本にある中国系企業の工場を守るために中国軍が来ても合法、となってしまう。

 仮に、日本に食糧、石油など不可欠な物資を運ぶ船が続々と攻撃され、国民の生存すら脅かされる事態になれば、船籍にかかわらず日本に向かう船を守ることも自衛権の範囲と言えるだろう。だが今のホルムズ海峡の情勢は、岩屋防衛相が「我が国の存立を脅かすおそれはない」と言ったとおりだ。

 今回の米国とイランの対立については、日本政府も従来のように安易に米国に追随せず、これまでのところ慎重で中立的な姿勢を示してきた。

 イラン核合意支持を常に表明してきた日本にとって、有志連合やイラン包囲網に加わる「大義」はない。トランプ大統領の愚行で米国が孤立する形勢は、日本に自主的対外政策を選ぶ機会を与えたとも言えそうだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2019年8月5日号より抜粋