「全員喜んでくれると思って始めました。でも血みどろの闘いになりましたね」(18年1月1‐8日号)

 吉本は実質無借金経営を続けてきたが、このTOB実施のための資金調達で借金が膨らんだ。15年には125億円ある資本金を1億円に減資した。関係者はこう言う。

「戦後に上場しましたが、それが時代の流れで敵対的買収の標的となる可能性もあったので上場廃止し、反社会的勢力との関係も一掃した。大崎氏の考える理想の会社を実現するためでしたが、その時にはまさか今回の騒動のような結末がやってくるとは思っていなかったと思います」

 かつて吉本興業は大阪ではメジャーでも、東京では名刺を出したら笑われたという逸話があるほどマイナーな存在だった。在京キー局の社員はこう語る。

「吉本が肥大化したのはテレビ局が安易に吉本芸人を使うからです。テレビに出る芸人が急増すれば、会社の力は増します」

 なぜ吉本芸人を使うのかというと「便利だから」だと言う。

「どんな番組でも瞬発力でほどほどに良い反応をする。視聴者、視聴率を気にするスポンサー、そしてテレビ局との共犯によって吉本がコントロールの利かない組織になったように思えます」

 今年5月、芸能プロダクションの経営実態を調査した帝国データバンク情報部の佐古真昼さんはこう言う。

「芸能プロダクション業界は全体として増収傾向にありますが、事務所と所属タレントの間でのトラブルなどさまざまな問題が表面化しています。労使ともに円滑な関係性が重要になってくると思います」

 吉本興業が所属芸人と契約書を交わしていないことに絡み、24日、公正取引委員会は「競争政策の観点から問題がある」との見解を示した。25日、同社は希望するタレントには書面で契約する方針を固めたと報じられた。同社の今後の対応が注目される。(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年8月5日号