明治初期に確立した浪曲は、男性演者のほうが圧倒的に多かったものの、落語や講談に比べると女性演者は当初からいた。

「体力的、声の幅で男性に及ばない部分がありますが、逆に女性の特性を生かせる部分もあると思ってやっています」

 こう語るのは、浪曲師の玉川奈々福さん(54)だ。今年4月、伊丹十三賞を受賞し、6月には「刀剣歌謡浪曲『舞いよ舞え』」で歌手デビューも果たした。

 浪曲は三味線を弾く曲師と物語を語る浪曲師、二人でひとつの芸能だ。譜面はなく、息を合わせて芸をしていく。当初、三味線の弾き方で苦労していると、亡き玉川福太郎師匠から「呼吸がわかっていないから、勉強のために、うなるほうもやってみたらどうか」と勧められた。いまや語りが本業だ。

 演芸作家の小佐田定雄さんは「浪曲は時代とズレている、という先入観を軽く蹴とばし、無限の可能性があることを実証しています。今の世界にもいるお調子もののスットコドッコイを描かせたら当代一。ほかの世界に攻めこんでいくプロデューサーとしての才能も超一流です」と、奈々福さんを評する。

「浪曲は、社会の最底辺から生まれました。お銭(ぜに)を出してもらうために声を張り上げ、芸の限りを尽くします。そういう大道芸の末裔(まつえい)にいることを誇りに思っています」(奈々福さん)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2019年7月29日号より抜粋