「師匠は義太夫の難しさと奥深さを教えてくれた恩人です。女性は男性に比べて確かに声帯も違うし腹の力も弱い。けれども乗り越えられないハンデだとは思いません」(駒之助さん)

 女流義太夫三味線の鶴澤寛也(かんや)さんは、今年1月に亡くなった作家・橋本治さんのこんな言葉を覚えている。

「駒之助師匠の語りを初めて聞いた時、最初の一声で義太夫の全てを表していて衝撃を受けた」

 義太夫はたった一人の太夫が、様々な立場の登場人物の心情とそこに流れる物語を語る。自分の子を忠義のために殺す母親の心情でさえ、「そんな状況もあるかもしれない」と胸に響かせる語り芸だ。

「あれほど盛んだった義太夫が日本人の生活から遠いものになり、入門する人も減ってきています。若い人にこそ良いものを聞いてもらい、義太夫の素晴らしさを知ってほしいと思っています」(駒之助さん)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2019年7月29日号より抜粋