安藤寿康(あんどう・じゅこう)/双生児法による遺伝研究の第一人者。著書に『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)など。61歳(写真:本人提供)
安藤寿康(あんどう・じゅこう)/双生児法による遺伝研究の第一人者。著書に『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)など。61歳(写真:本人提供)

 最新の研究で、IQや才能、性格、薬物への依存まで遺伝の影響を受けることがわかってきた。ならば、「努力なんかしたってムダ」なのだろうか。慶応大学文学部教授(教育学)で、ふたご行動発達研究センター長の安藤寿康さんは、二つの意味で「そうではない」と話す。

 安藤教授によると、今の学校教育の中では、IQの及ぼす影響が非常に大きい。これはそもそもIQという指標が、言葉や数字の処理能力、記憶力、法則を見ぬく力といった、学校の勉強で必要とされることが多い能力を測るものだからだ。

 ただ、社会で必要な力は、すべてがIQで説明できるわけではない。IQの高低にかかわらず、ある分野においてトップクラスの才能を秘めた人はいる。

「今の学校制度の中で、自分の適性が必ず見つかるという保証はないが、自分の持っている素質について最初から『くだらないものだ』と決めつけずに可能性を探るべきだ」

 もう一つは、発揮される能力が、遺伝だけで決まるわけではないという点だ。安藤教授は、人の能力をパソコンに例えると、遺伝の影響を受ける部分は演算処理をするCPUに、学習や経験で身につける部分はデータベースにあたると説明する。

「例えば魚屋さんはあらゆる魚を一瞬で見分け、旬の時期や調理法まですらすらと導き出すことができる。いくらCPUの処理能力が高くても、頭の中に、魚について膨大かつ整理されたデータベースが構築されていなければそうはいかない」

 CPUが高性能なら、多くのデータを素早く処理できる。そういう人はおそらく、様々な場面においてのみ込みが早いだろう。ただ、いくらCPUが高性能でも──つまり遺伝的に処理能力が高くても、勉強や経験が足りず、頭の中のデータベースが貧弱なら、適切な答えは導き出せない。遺伝的な能力の高低にかかわらず、努力は必要なのだ。(編集部・小田健司)

AERA 2019年7月29日号