角銅真実(c)FUJI ROCK FESTIVAL '19
角銅真実(c)FUJI ROCK FESTIVAL '19

 今年もいよいよ7月26日から3日間、新潟県苗場町でフジロック・フェスティバルが開かれる。大型音楽フェスといえば、左右に巨大なモニター画面のあるステージを何万人もの観客と一体となって観るものと思われがちだが、フジロックには大小さまざまなステージ(エリア)が20ほど用意され、中には100人集まればいっぱいになってしまうこぢんまりした場所もある。

 例えば「木道亭(もくどうてい)」と名付けられた場所は、ステージとステージの間をつなぐ木道(ボードウォーク)にしつらえられた、おそらくフジロック最小の舞台。木々の中にポツンと置かれたその舞台は、移動途中にふと足を止めて路上演奏を楽しめる感覚が魅力だ。当然、音響装置も簡素なので、近くにある他の大きなステージの演奏の音が聴こえてくることさえあるが、木立の合間の舞台ゆえ涼しく、避暑地でのキャンプ気分も味わえる。

 弾き語りアクトがメインだが、驚くような人気アーティストがそんな小さな木道亭に出演することもある。気がついたら小さなステージを取り囲むように、観客がボードウォークからはみ出して、木々の中で座り込んで聴き入る場面もしょっちゅうだ。

 もちろん、木道亭は静かに堪能するためだけのステージではなく、過去にはアメリカの人気バンド、ロス・ロボスが登場して大喝采となり、ちょっとした伝説を作ったこともあった。

 通り道にある舞台ゆえ、3日間の開催で1日3ステージずつしかない。そんな木道亭で、今年のオススメは初日26日の14時50分に登場する角銅真実(かくどうまなみ)だ。多彩な打楽器を自在にあやつりながら、自分の声でさえそうした音の中で優雅に遊ばせるような作風が印象的な彼女は、クラフトマンシップあふれる「音楽家」と呼ぶにふさわしい。

 曲のフォルムや概念そのものを見直し、再構築するような作風を得意とする一方、内在する人懐こさやチャーミングさが自然と出てしまうのも魅力の一つ。国内外で多くのインスタレーションやアートプロジェクトに携わりながら、CM曲を制作したり、人気バンドのオリジナル・ラヴやcero、原田知世らのアルバムやライブに参加するなど幅広い現場で引っ張りだこの活躍を見せているのも当然と言えるだろう。ある意味、この21世紀にポップ・ミュージックの新しいスタイルを決して気負わずに、難しく捉えることなく提案する女性アーティストと言ってもいいかもしれない。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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セカンドアルバムで見せた異なる表情