一卵性と二卵性の双子を調べることで遺伝の影響がわかる(AERA 2019年7月29日号より)
一卵性と二卵性の双子を調べることで遺伝の影響がわかる(AERA 2019年7月29日号より)

 音楽の才能は92%、スポーツは85%、数学は87%が遺伝の影響。そんな調査結果が、数多くの双子を統計的に分析する手法で明らかになった。

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 遺伝の影響を調べるのに使われるのが、一卵性双生児と二卵性双生児を、統計的に比較する手法だ。慶応大学文学部教授(教育学)で、ふたご行動発達研究センター長の安藤寿康さんは一例として、青年期のIQについて遺伝と環境の影響を推計する方法を説明してくれた。

 一卵性双生児は一つの受精卵から生まれるため、遺伝子が完全に一致する。一方、二卵性は受精卵が別々なため、一般的なきょうだいと同様、遺伝子は平均して50%程度が一致する。そのため一卵性と二卵性は、遺伝の影響は2:1になる。

 環境要因のうち、家族の形質をより似させようと働く要因を「共有環境」、その逆を「非共有環境」という。詳しい説明は省略するが、ここでは一卵性と二卵性に与える「共有環境」の影響は等しい(1:1)という考え方だけを理解してほしい。

 さて、一卵性双生児と二卵性双生児のIQの分布では、横軸が兄、縦軸が弟のデータで、2人のIQがぴったり同じなら「y=x」の直線上に乗ることになる。仮に全ての兄弟のIQがこの直線上に乗ったら、「100%の相関がある」と言える。一卵性と二卵性では明らかに一卵性のほうが直線の近くに集まり、二卵性はばらつきが大きいことが分かる。

 安藤教授によると、青年期のIQの相関は一卵性が0.73、二卵性が0.46。ここから共有環境の影響(1:1)を差し引き、遺伝の影響の比率(2:1)を計算すると、青年期のIQは54%が遺伝の影響、という数値が導き出せる。

 同様にして、音楽の才能は92%、スポーツは85%、数学は87%が遺伝の影響ということがわかっている。そんな研究結果を、肌身で感じている人も多いのではないだろうか。

 東京都の会社員男性(43)は、北陸の小さな町の出身だ。両親はともに高卒で、自営業を営んでいる。「学生時代から数学が得意だった」という男性は、中高と地元の公立校に通い、慶応義塾大学経済学部に進学。卒業後はIT系の大手企業に勤務し、順調に課長にまでなった。地元では「出世頭」との呼び声も高い。

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