ただし、うまいものを食べたいときに自分が回転寿司に行くかというと、話は別だ。個人的に回転寿司に行くのは、無性にすしを食べたくなった昼飯どきなど、常に妥協の香りが付きまとう。巷で噂を聞くにも、ポテトフライやうどんなどサイドメニューが人気だったり、手軽で廉価なファミリー層の選択肢だと思っていた。

 だが、回転寿司評論家の米川伸生さん(52)によると、こうした感覚こそ「もはや古い」のだという。回転寿司のレベルが極端に上がっているからだ。

 背景には、冒頭のまいもん寿司のような地方発の回転寿司チェーンの躍進がある。漁港近くの回転寿司チェーンの魅力を、米川さんはこう語る。

「漁港は魚がうまい。そんな土地はもちろん、回転寿司もうまい。北陸や北海道に旅行に行ったら、ご当地回転寿司に行くというのは、昨今の観光でも自然な流れです」

 地元の回転寿司には、大きな強みがある。

「のどぐろもがすえびも、本当にいい地魚は、豊洲のセリには並びません。時間とコストをかけて全国に流通させなくても、地元にニーズがあるからです。漁獲量に限りがあったり、足がはやかったりするのならなおさら。地元の回転寿司店は、地元の漁師たちと信頼関係を築き、地魚の独自の仕入れルートを持っています」(米川さん)

 セリを介さず直接仕入れて出荷すれば、コストと時間の節減になる。安定した価格と量の取引は漁師にとってもありがたい。

 いま人気を博しているのは、産直ルートを開拓し、自慢のネタを出している地方発の回転寿司なのだという。

「以前なら旅先でしか食べられなかったネタを、鮮度を保ったまま東京で食べられる。地方発の回転寿司は、郷土料理店や街の大衆寿司屋に取って代わろうとしています」(同)

 冒頭の金沢まいもん寿司は、金沢市に本店を構える。北陸のすし文化は独特だ。鮮度が高いネタが安価で食べられるから、サラリーマンはランチにラーメンを食べる感覚で回転寿司に入ることも多い。総務省統計局の調査によると、年間あたりすしにかける金額は、全国平均1世帯あたり1万4874円に対し、金沢市は2万2545円で全国トップ。いわば日本一すし意識の高い都市だ。(ライター・瀬波充)

AERA 2019年7月29日号より抜粋