「もうすぐシーズンに入る時期に、急に全然話したこともないコーチに、『全試合、帯同してください』というのは申し訳ない。ちゃんと拠点を置いて練習をしたうえでコーチをお願いしたい。今季、コーチは決まらないんじゃないかな」

 確かに今季は、22年の北京五輪まで時間もあり、試行錯誤が許される最後のチャンス。羽生も、ソチ五輪の前シーズンにブライアン・オーサーのもとに移籍し、2年で結果を出した。来季までに最適な場所を探すというスタンスは有り得る。では宇野はどんなコーチを求めるのか。

「僕が一番欲しいのは、自分と同じようなレベルの選手がいる環境。4回転を複数跳んでいる選手の近くで練習したい」

 コーチ不在でのシーズン突入は、やはり異例だ。試合では、独りでキス&クライに座るのかと聞くと、笑いながら答えた。

「そうなんですよ、今年はたぶん。(日本スケート連盟フィギュア強化部長の)小林芳子さんが座ってくれるかも」

 そう冗談めかす21歳の目には、不安よりもむしろ自信が垣間見える。そこには、「コーチが決まらない」のではなく、「あえて決めないのだ」という決意が見てとれた。

「美穂子先生からは『どんな形になっても、これからも一番応援しているから頑張ってください』と言われました。これまで以上の結果を出すことが、満知子先生や美穂子先生のため、そして何より自分のためになる。自分のスケートというものを見つけたいと思っています」

(ライター・野口美恵)

※AERA 2019年7月29日号より抜粋