生徒と一緒に自らも成長したいと思い教員になったが、待っていたのは長時間労働と残業代不払いだった。

 クラス担任と部活の顧問も務め、残業は月160時間を超えた時もあった。昼食を食べる時間すらない日も続いた。勤務時間はパソコンで管理されていたが、給与明細に残業代は記載されなかった。しかも、男性は学校の寮に寝泊まりをし、そこの監督者までさせられた。それだけ働いても、給与は手取りで月17万円程度だったという。

 さらに、校長による日常的なパワハラが教員たちを苦しめた。校長は自分の気に入らないことがあると、「バカ、アホ、マヌケ」と人格を否定するような暴言を吐いた。こうして多くの教員は心身をすり減らし、2、3年で次々と辞めていった。精神的に追い詰められ、うつになった同僚もいたという。

 男性は、現状を変えなければと思い、労働組合「私学教員ユニオン」(東京)に相談。今年2月から仲間の教員たちと共に学校と団体交渉を重ねている。それは、教員のためでもあり、生徒たちのためでもあると語る。

「教員が安心して働けない学校は、生徒のやる気や頑張りにも絶対に影響が出ます」

 同校は本誌の取材に、こう回答した。

「誠実に対応し、解決に向けての努力をするとともに、労働諸法令の順守に努めていきたい」

 私学教員ユニオン代表の佐藤学さん(32)は言う。

「教員が短期間で入れ替わることで、教育の内容や質も蓄積されず劣化する。生徒や保護者との信頼関係も構築できず、授業や部活、クラス運営を安定的に行うことが難しくなる。短期的に非正規教員を使うのではなく正規雇用を増やすべき。非正規を増やしてコスト削減しても、長期的には教育の質が劣化して生徒が集まらなくなる。教育という社会基盤に多大な悪影響を与えます」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年7月22日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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