稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
灼熱の台南ですが家の中はヒンヤリ。理由の一つがこの石の床。ペタペタ裸足で歩くと冷たくて気持ちいい(写真:本人提供)
灼熱の台南ですが家の中はヒンヤリ。理由の一つがこの石の床。ペタペタ裸足で歩くと冷たくて気持ちいい(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】灼熱の台南ですが家の中は石の床でヒンヤリ

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 台南を旅行中のアフロです。ちなみに当地、旅行業界的には超シーズンオフと思われる。だって暑くて超ムシムシ、しかも連日の豪雨(笑)。しかしそれはそれで味わいもあり。民泊で古い平屋を借りてダラダラしているんだが、雨が降るたび「バラバラバラ」とものすごい音がサラウンドで来て音響効果抜群じゃ。なまじの劇場なんてメじゃない。雨という世界にすっぽりと包まれる私。そういや子どもの頃住んでいた家はこんな感じだったよと、私のハートは懐かしい過去へと旅立つ。

 それはさておき、旅に疎い私は恥ずかしながら初めて国際便のLCC(格安航空会社)を利用した。安いと喜んでいたのも束の間、これまで普通に享受していたサービスが全て有料と知る。荷物を預ける、座席を指定する、食べる、飲む、毛布を借りる、これ全て、サービスに応じてチャリンチャリンと課金される仕組みなのであったナルホド。

 となると、意地でも課金されまいと頑張る私。だってせっかく最安値の会社を検索して予約して、追加料金を払うなんて本末転倒ではないか。

 機上では飲み食いせぬと決め、ショールを持参、座席はどんな悪条件でも瞑想で乗り切ることにした。ナニ所詮は4時間程度のことである。

 しかし問題は荷物だ。海外に10日も行くのに手荷物だけなんて考えたこともない。だがいざパッキングしてみたら、日々使っているパソコン入りショルダーバッグのほか、小さな手提げカゴ1個に収まった。航空会社の規定を余裕でスルー。っていうかほぼ通勤レベルではないか。

 減らしたというより、実はこれ以上持っていくものを思いつけなかった。だってこれが今の普段の暮らしなのだ。毎日洗濯するので衣類の替えは最小限、化粧品やシャンプーの類いはそもそも使わない。数少ない「あるもの」でなんとかしている。つまりは毎日が旅行中である。となれば風のようにふらりと旅立てるのだ。おおなんだかカッコイイじゃないの。

 自らを虚しくすれば世界は広がるのである。

AERA 2019年7月22日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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