逮捕されても服役しても、相手の執着が消えない限り被害者に安寧はないのだ。治療によってそれを取り除くことが、本当の意味で被害者を守ることになる。

「治療施設が少ない、治療費は当人持ちなど、問題はたくさんあるんですけど、とにかく今ある問題を洗い出して書きたかったんです。それでみんなが必要だと思って動いてくれればなと思っています」

(ライター・濱野奈美子)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんオススメの一冊

『君たちは今が世界(すべて)』は、教室での息苦しさと希望が、小説として描かれた一冊だ。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

「皆さんは、どうせ、たいした大人にはなれない」

 6年3組を受け持つ担任の先生は、どうしてそんな呪いのような言葉を、自分の生徒たちに投げつけたのか。学級崩壊は先生の至らなさであり、自分たちは被害者だ。そう思い続けた子どもたちは、確かに「たいした大人にはなれない」だろう。

 子どもたちには逃げ場がない。そう遠くない未来が、今とはまったく違う状況にあることを、想像することもできない。大人だって、こうして小学生の視点で描かれた物語を読まないと、あのころの息苦しさを思い出すこともないのだ。

 君たちは今がすべてなのだろう。それを自分の経験としてわかっている上で、いつか届くかもしれない言葉を投げかけること。それは呪いではなく、精いっぱいの祈りなのかもしれない。

AERA 2019年7月22日号