「これ国会議員に20部ずつ配られているということですが、ご覧になられたことありますか」

 ニュースアンカーの星浩さんの質問に対しては、あいまいな答えに終始した。

「あの、党本部でですね、いろんな冊子を配っていますが、あの、私、いちいちそれを見ておりませんので、まったく知らないんですが。無責任だと言えば、無責任だと思いますよ」

 自分に都合の悪い質問に関しては、真正面から答えず、その質問の手法に疑問を呈し、メディアの印象操作と言う。トランプ大統領が、自分を批判した媒体の記者を名指しして「フェイクニュース」と決めつけ、激しい口調で恫喝する姿勢と重なる。

 とりわけ姑息と批判が噴出したのが「民主党の枝野さん」と、野党第1党の立憲民主党の党首である枝野幸男代表を揶揄した安倍首相の選挙応援演説だ。この言い間違えは2日にわたり計8回。ある野党幹部は悪質な言い間違えで確信犯だと断じる。

「国会でも民主党政権時の悪夢と連呼するのが、安倍首相の十八番でした。ただ、この『民主党の』という言い方は、明らかに有権者が党名を書いて投票する比例代表を意識した発言。つまり、民主党と書いても立憲民主党の票にならない。選挙妨害だ、と批判されて当然です」

 選挙妨害をメディアに指摘された安倍首相は、

「どんどん変わるから覚えるのが大変」

 と、反論。もちろん謝罪はなかった。この相手を嘲笑し、意見の違う相手とは真正面から議論をしない姿勢もトランプ流に通じる。

 自民党内のベテラン議員からは情けないと声があがる。

「かつての自民党が大切にしてきたのは、フェアな精神。派閥同士の議論でも、他党の議員に対しても、正々堂々と議論を戦わせる。党内であれば、議論を経て最終的な結論が出たならば、その時はノーサイドで一致団結する。この善良な政治風土を壊したのは、米国ではトランプ大統領であり、日本では安倍首相だ」

(編集部・中原一歩)

AERA 2019年7月22日号より抜粋