キーワードは、中小企業金融円滑化法。リーマン・ショック後にできた時限法で、金融機関は、債務者から返済猶予や金利減免などを要望されたら「誠実に対応すること」が義務付けられた。「中小企業」とあるが住宅ローンも対象だ。13年の期限切れ後も、金融庁は要望件数と応じた割合の報告を求めてきた。

「法律失効後も、相談を受けた約3割の方が実際に金利を下げてもらえていると感じます」

 金融庁への報告は3月で終了したが、要望する価値はある。

 金利が低い分、繰り上げ返済も効果が出づらい。「その分は手元に置いて緊急時に備えたり、運用に回すのもあり」(藤川さん)、「預金より高金利。繰り上げ返済すべき」(経済ジャーナリスト・荻原博子さん)と専門家でも意見は様々だ。

 試算では、500万円の繰り上げ返済と先述の金利引き下げで10年あたり約82万円の効果が生まれる。

 さて、住宅の見直しで多くの人が考える手法に「住み替え」がある。子どもは巣立ったし、今の家を売ったり、賃貸に出して小さなマンションに移れば、老後資金が生まれるはず──。

「なかなかうまくはいきません。古い家を貸すにはリフォームが必要なことが多いし、荷物も捨てられません」(藤川さん)

 一方、同じ住み替えでも“移住”はいい手だそうだ。

「退職後、都市圏の家を売って地方で家を買えば、まとまった老後資金を生み出せます」(同)

 長野県安曇野市の男性(81)は20年前、茨城県から移住した。家を3千万円で売却し、安曇野でほぼ同じ広さの戸建てを購入。差額で数百万円を得た。

「私も妻も山好きなのが決め手。資金もですが空気も最高です」

 田中創さん(67)が東京都東村山市から滋賀県長浜市に移住したのは2年前。一戸建てを3800万円で売り、退職金と合わせて長浜に新築した。土地は2.5倍に。庭に畑も作った。

「東京の家は築20年ほどで、住み続けるにはメンテナンスが必要。最新の家に建て替えたので長く快適に暮らせます。移住は資産の再生ですね」(田中さん)

 広さにこだわらなければ、元の家の売却益だけで十分だ。生活に不便はない。出費も減った。

「東京では飲みに行くか、ゴルフか。使う金額は月10万円は減りました。環境もいい。移住してよかったです」(同)

(編集部・川口穣)

AERA 2019年7月15日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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