稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
本文と何の関係もありませんが、台南に来ております。連日大雨ですがマンゴー食べて喜んでいます(写真:本人提供)
本文と何の関係もありませんが、台南に来ております。連日大雨ですがマンゴー食べて喜んでいます(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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*  *  *

 世間ではとっくに旧聞だろうが、つい梅干しの話題にかまけて後回しにしていたので、今更ながら書いてみる。

 オリンピックのチケット騒ぎである。

 ご案内の通り、最初のチケット抽選が終わった。私は終始無関心だったが、世は並々ならぬ騒動になっていたらしく、ラジオや新聞で自然に「ああもうすぐ締め切りなのか」「今日が抽選発表だったのね」と知ることとなった。

 特に抽選発表の日は、フェイスブック(たまに見ることにした)で「当たった(ハート)」「全滅~」などの投稿が相次いだので、自然に、誰が申し込んでいたのかを具体的に知ることとなった。意外に思ったのは、オリンピックがらみの様々なトラブルやらスキャンダルやら、そもそもの開催の是非について批判的なことを言っていた人も、案外チケットの申し込みはしていたのだなということである。

 もちろん、いくら大会運営に疑義があろうとも、競技や競技者への関心は別というのはわかる。いうまでもなく、もとよりアスリートには何の罪もない。

 むしろ私が驚いたのは、自分の頑迷とでもいうべき態度である。私もスポーツには人並みの関心はある。ぜひ世界のトップアスリートをこの目で見てみたいとも思う。しかしこの度のオリンピックにはどうしても「乗りたくない」のである。理由は一つではないが、一つだけ申し上げるとすれば、何よりもこの、日頃の主張や政治的態度にかかわらず、「だってこんな機会はもうないんだから」と「みんなが乗っていく」感じが嫌なのだ。

 ちょっと前までは、私もこのような頑固ババアではなかった。しかし節電を始めた頃からだろうか、会社を辞めた頃からだろうか、いつの間にかこのような態度が身についてしまっている。オリンピックだけではない。流れとかウネリとか全般を用心している。気がつけば嫌と言いにくくなっていることが嫌なのだ。だからあえて嫌だと言ってみた。

 思った以上にビクついている。そのことがまた嫌。

AERA 2019年7月15日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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