小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
キム・カーダシアンさんが立ち上げた補正下着「キモノ」はブランド名を変更した=インスタグラムへの投稿から
キム・カーダシアンさんが立ち上げた補正下着「キモノ」はブランド名を変更した=インスタグラムへの投稿から

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】キム・カーダシアンさんが立ち上げた補正下着

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 またお騒がせ商法かと話題になったキム・カーダシアン・ウェストさんの補正下着ブランド「Kimono(キモノ)」騒動。日本の伝統文化である着物とはかけ離れた補正下着をキモノと称し、商標登録まで取ろうとするのは文化の剽窃・盗用に当たると批判を浴びました。

 ついには門川大作京都市長がブランド名変更を求める書簡を送り、世耕弘成経済産業相がツイッターで懸念を表明するまでに至り、キムさんは謝罪し、Kimonoというブランド名を撤回。それも織り込み済みの炎上商法でしょうか。

 でもこの騒ぎ、私はちょっと思うところがあります。確かに着物とはかけ離れた下着をKimonoと称して商標登録まで取ろうというのはやりすぎですが、商品自体はシンプルな補正下着。欧米では襦袢のように素肌に羽織るローブをキモノと呼ぶようですから、それに自らの名前Kimを重ねて下着のブランド名としたのかも。あまりにも実物と違うという指摘には同感ですが、悪趣味な東洋風のデザインというわけではないので、無知とはいえ着物の価値を貶めているとは思えません。

 それをいうなら、日本の成人式や夏祭りで目にする斬新すぎる現代風の和服の方が文化に対する冒?では? 安っぽいレースを使った膝丈の浴衣などは目も当てられない。京都の街中に溢れる観光客用レンタル着物にもひどいものもあり、景観を損なっているとすら思います。せっかく着るなら美しいものを着てほしい。着物は職人の技と伝統的な意匠の結晶。安易な日本風コスプレこそ、着物の価値を貶め、陳腐な東洋趣味を拡散しています。日本人なら着物を好き勝手にしていいというものでもないでしょう。

 伝統的な技術や美への理解と敬意なしに文化の継承はできません。市長や大臣もキムさんに苦言を呈するなら、ぜひ醜悪な着物風意匠の跋扈(ばっこ)にも目を向けてほしいです。

AERA 2019年7月15日号

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小島慶子

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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