「歴史がないからダービーはできない、ではない。作ってやろう、と逆手に取ったのです」

 クラシコという単語を使ったのは、他のダービーとの差別化という意味合いもあったと話す。

 共同での記者会見に始まり、両クラブの小学生チーム同士が前座試合をする「多摩川コラシコ」なども開催した。その後、次々と企画を展開。どちらのホームでも使う、この試合限定の入場曲まで作った。川崎側は多摩川を船で渡ったり、わざわざ東京・伊豆大島から味の素スタジアムの隣の調布飛行場まで飛んだりする観戦ツアーを決行。川崎市から歩いて乗り込む企画を組んだこともある。

「私にとっては、年に2回くる、一番楽しみなお祭りみたいなものです」(佐藤さん)

 多摩川クラシコが始まった07年前後から、日本では「○○ダービー」と名付けられた試合が出始めた。「作られたイベント的なもの」と、嫌がるサッカーファンもいるかもしれない。だが、99年のJ2参入時からFC東京を応援する会社員の武藤雄太さん(36)は「ファン全体を増やすという意味では、ライト層が喜ぶコンテンツもいいことなのではないか」と古参のファンも納得する。

 国内外のサッカーに精通するJリーグの原博実・副理事長(60)は、日本的なダービーで生まれる好影響を指摘する。

「無理やりに作ったようなものでも、いい面でライバル意識を持って戦うことで、自分たちにはこんな特徴がある、と気付くきっかけになる。経済規模から人口、気候や特産物。そういう特徴を持ち出して、『俺たちの方がいいぞ』ってぶつけ合ったら、楽しいですよね」

 クラブ主導で、両クラブのサポーターやファンが共に雰囲気を作り上げていく。あおられたって、笑顔であおり返す。ピリピリした雰囲気とは違う。世界のほかにはない、日本的なダービーマッチがJリーグにはある。

(朝日新聞スポーツ部・勝見壮史)

AERA 2019年7月15日号より抜粋