ダービーにはもう一つ、「ナショナルダービー」と呼ばれるものがある。国内で屈指の人気、実力を誇るクラブ同士の争いだ。レアル・マドリードとバルセロナの「エル・クラシコ」は毎回、世界中のファンが注目する。

 多摩川クラシコは、この「クラシコ」から拝借したという。はじまりは2007年。当時からFC東京に在籍し、立ち上げにも携わった若林史敏・運営広報統括部長(53)が思い起こす。

「クラシコでいこうとなったときは、びびりましたよ。やり過ぎじゃない?って。優勝争いもしたことがないチーム同士だったから。でも、ダービーっていうのも敵対心がないと使っちゃいけないのではないかな、なんていう思いもありました」

 ただ、多摩川クラシコが生まれるきっかけとなったのは、まさに「対抗心」だった。

近距離の川崎で集客

 06年11月、FC東京がホーム戦に川崎を迎えた試合。都内全域をホームタウンとするFC東京。だが、味の素スタジアムの地理的条件を考えると、都の東部から足を運んでもらうより、川崎からの方が近い。FC東京側は、アウェーのサポーターにたくさん来てもらおうと考えた。

 そこで用いたのが、あおり作戦だった。「君たちは、FC東京に勝ちたくないのか!」。そんなキャッチフレーズのポスターを作った。川崎に許可を取り、多摩川の反対側も走るJR南武線の各駅に貼り出した。

 これが成功した。

 成績が低迷し、集客に苦戦していたシーズンの終盤、あいにくの雨にもかかわらず、2万3251人が入った。試合は1‐4から4点を取り返して、5‐4で逆転勝ち。若林部長によると、「当時の状況からしたら十分な入りで、試合も盛り上がった」という。

 プロモーションの視点から、商機を見いだしたのが川崎側だった。継続的に両クラブの対戦を盛り上げていこうとFC東京に提案した。クラブ間の話し合いを経て、07年5月の対戦が「多摩川クラシコ」と銘打った初試合となった。

 当時の担当者の下で働いた経験のある、川崎の集客プロモーショングループの佐藤弘平さん(28)の言葉も力強い。

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