「本県では児童相談所のレベルアップを図ってきており、国のルールでは48時間で対応するところを24時間にして、基本的にはこの範囲内で対応できています」

 6月19日の鳥取県議会一般質問。児童虐待への対応を問われた平井伸治知事はこうアピールした。

 00年度に県内で起きた児童虐待死事件などを契機に、初期対応の見直しを図ったという。ただ、鳥取県の場合、その以前から手厚い児童福祉政策を続けてきた伝統がある。

●苦しい状況からの脱却、早いに越したことはない

 昨年度までは、管轄区域の4万人に1人配置する国の基準を4人上回る19人の児童福祉司を配置。今年4月には、1人増員し計20人体制にした。22年度までに4万人から3万人に1人に見直す国の新たな配置基準に率先して対応した形だ。加えてこの20人は、社会福祉の専門職として採用された職員ばかりなので、専門性の蓄積や組織の意思統一も図りやすいという。県中央児童相談所の川本由美子所長(56)は言う。

「24時間だから翌日の何時までに確認すればいいみたいな感覚は、どの職員にもありません。その日のうちに、という使命感が体に染み付いています」

 鳥取県内には三つの児相があり、地域との連携も強い。学校は午前中の通告を徹底。警察からの通告は、正式な書類が届く前に口頭で説明を受けた時点で対応する。とはいえ、24時間ルールを厳守していても、リスク判定を誤り、虐待死事件を防げなかったケースを過去に経験している。県の担当課長補佐の西村耕一さん(44)は、「24時間」を旗印に掲げ続ける意義をこう唱える。

「24時間ルールはあくまで一つのツールにすぎません。それでも、子どもの立場で考えれば、苦しい状況から回避できる機会は少しでも早いに越したことはありません」

 虐待通告の年間対応件数が1万件を超える東京都や大阪府などの大都市圏と比べると、鳥取県は18年度422件(このうち虐待認定は80件)と圧倒的に少ない。

 地域によって事情は大きく異なるが、子どもの命を守るため「一刻も早く」対応しなければならないのは共通の使命だ。児童虐待にはここまでやればいいという線引きはない。行政の優先順位をどこに置き、児童虐待にどう向き合うかが問われている。(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年7月15日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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