政府は19~22年度の4年間で児童福祉司を現在の3千人から5千人体制にする対策を決めた。しかし、それで解決が図られるわけでもないという。

「新人がどっと入ってきて研修教育に追われ、虐待対応がおろそかになるようでは本末転倒です」(才村教授)

 前述のように、48時間ルールは虐待対応の入り口にすぎない。場合によっては親子を引き離す「介入」も必要だ。その際、重要なのは専門的な知識や技術に加え、それぞれの職員が培ってきた勘や経験だと才村教授は言う。

 例えば、親子が一緒にいる場合、子どもを見る親の目が鋭い、親がそばに寄ると子どもがおどおどする、といった「場の空気」を察知する能力も現場職員に求められる。こうした判断を迫られる虐待対応を任せるには「最低10年」の経験が必要とされる。

 だが、全国の児童福祉司の45%は3年未満の勤務経験しかない。一般行政職の職員を数年で配置転換する自治体もあれば、激務のため専門職の若手が離職してしまうケースも絶えない。才村教授は言う。

「48時間ルールを定着させるには、まず職員が定着しないといけません。国は人材育成の長期ビジョンを描く必要があります」

 一方、虐待対応の抜本的な改革が必要との指摘もある。前出の小宮さんはこんな思いを吐露する。

「もし今、藤井さんが生きていたら、『48時間ルールはもう古い』と言うのでは」

 虐待通告が急増する中、画一的に「48時間以内」の厳守を求めるのは実効性のある対応とはいえなくなっている、というのだ。そもそも埼玉県が48時間ルールを導入した際も「時間を区切る」のが主眼で、48時間という数字に虐待対応のデータや医学的裏付けはなかった。小宮さんは言う。

「今求められているのは、通告窓口を一本化して内容を1件ずつ吟味し、対応の優先度を判断できる人材(スクリーナー)の配置と、円滑に担当機関へ振り分けるシステムの構築です」

 課題は認識していても、予算や人員の確保がおぼつかないのが多くの自治体の本音だろう。そんな中、「48時間」よりも厳しい「24時間ルール」を設定している自治体がある。厚労省によると18年4月現在、群馬県、福井県、鳥取県、長崎県、堺市の5自治体。その一つ、鳥取県の事例を紹介したい。

次のページ