このケースはたまたま職員がすぐに動ける状況だったため奏功した。現場では「即応」を基本に、常にフレキシブルな対応が求められている。

「救急車や消防車は通報後すぐに現場に駆けつけます。児相の安全確認もこれと同じ。48時間以内であればいい、というわけではありません」

 児童福祉が専門の東京通信大学の才村純教授(70)はこう話し、子どもの命にかかわる48時間ルールの順守は「仕事の最優先事項」と位置づけられているかどうかの問題だと強調する。7月1日には仙台市で、2歳の長女を数日間、自宅に放置して死なせたとして、25歳の母親が逮捕された。このケースでは虐待の通告はなく、周囲は手を差し伸べることができなかった。せめて、虐待を疑わせる情報提供があるのなら子どもを死なせる事態は防ぎたい。その基本となる48時間ルールをめぐる認識が児相内部で共有されていないのはなぜか。

「担当者が多忙を極める日本の現状は異常です。疲弊のあまり、基本ルールを守る感覚すら麻痺してしまう可能性も否定できません」(才村教授)

●ルールを定着させるには、まずは職員が定着すること

 全国の虐待通告件数は99年度は1万1千件余だったのが、17年度は13万3千件超にはね上がった。1人当たりの担当件数が20件前後の米国、英国、カナダなどと比べ、日本では100件を超えるケースも珍しくない。6月の記者会見で「職員1人当たり100以上の案件を抱えており、非常に厳しい」とうなだれた札幌市児相の高橋誠所長の姿も記憶に新しい。

 児相の虐待対応は、子どもの安全確認で終わらない。親との面談が不可欠だが、たいてい日中は電話に出てもらえない。手紙を書いても返信がない。仕方なく夜間や休日に訪ねる。会うのにひと月かかることも。そうなると、時間外勤務は際限なく広がる。そんな中、「全ての通告に48時間以内の安全確認を」と号令をかけられても、「対応は不可能」との悲鳴も上がる。

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