近藤サトさん (c)朝日新聞社
近藤サトさん (c)朝日新聞社

 シニア女性に人気のグレイヘア。ありのままの自分を表現できると人気だ。だが、疑念が拭えない。それって美人の特権? 58歳金髪のコラムニストが仕掛け人に会いに行った。

【写真特集】草笛光子さん、佐伯チズさんなど 芸能人も外相も私たちみんなグレイヘア

*  *  *

 58歳にしてグレている。金髪にしてるのだ。不良である。

 昨年9月、松田龍平主演映画「泣き虫しょったんの奇跡」を見に行ったことがきっかけだった。ファンなのだ。「大人1枚」と言ったら、チケット売り場の女性が紙を出して言った。

「該当するものはないですか?」

「学生割引」や「夫婦50割引」などが並ぶ割引一覧表だった。学生でないことも、2人でないことも明らかだ。5秒ほどで理解した。「60歳以上ならシニア割引になりますよ」と言ってくれているのだ。がーん。

 まだ57歳だった。それなのにシニア割を勧めていただいた。白髪の、いや昨今的にはこう言う。グレイヘアの、せいだ。

 今、大変なブームのグレイヘア。始まりは10年ほど前、草笛光子さん(85)だったと思う。鍛えた体と真っ白な髪の毛で、女性ファッション誌の常連になった。そこに火をつけたのが、『パリマダム グレイヘア スタイル』(主婦の友社)という写真集。2016年にヒットした。白髪交じりも含め「グレイヘア」とおしゃれに表現したこと、それを選ぶ「意思」も紹介したことが奏功した。以来、50代以上の女性をターゲットにした女性誌が続々と「グレイヘア」特集を組むようになった。

 当時、シニア女性誌の編集長をしていたから、これはブームになるなと予感した。「自分らしさ」「ありのまま」。そんなキーワードをセットに、白髪染めをやめたい人の背中を押すだろうなと思ったのだ。

 主婦の友社は18年、舞台をパリから日本に移し、結城アンナさんが表紙の『グレイヘアという選択』を出版。『グレイヘアの美しい人』も出し、同年11月に発表された「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補に「グレイヘア」も選ばれた。今年4月には『グレイヘアという生き方』を出版。4作で計10万8800部を売り上げているという。

著者プロフィールを見る
矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

矢部万紀子の記事一覧はこちら
次のページ