その一方で、撮影で張り詰めた気持ちを解放させる出来事もあった。長期滞在した石巻では、地元住民との触れ合いも多くあったという。

「もうこっちに住んでいるような感じです(笑)。近所の方が優しくて、おいしい差し入れをいっぱい持ってきてくれました。撮影の合間に近所で、1人でウニを5個くらいもらって、白いご飯にしょうゆをかけて一緒に食べたときは至福でした。撮影中に民家の方にお昼ご飯だけでなく、夜ご飯までごちそうになったこともありました」

 ノーメイクで自然体だった役柄ゆえか、本来持っている人間力なのか、香取には地域のコミュニティーにもスッと溶け込んでしまう親しみやすさがある。その根っこはシリアスな撮影現場でも変わらないのだろう。

「ノーメイクだし、寝てるのか起きてるのかわからない表情でボーッとしているような演技も多いんですけど、普段の僕もそんな感じなので、逆によかったです(笑)」

 最後には、あの人懐っこい笑顔の香取に戻っていた。(朝日新聞出版・作田裕史)

AERA 2019年7月1日号